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「どこに向かってるのかなぁ?」  そのまま後を追い続けたスカリが導かれる様に辿り着いたのは駅構内のコインロッカー。立ち止まると男はゆっくりとした足取りで目的の番号を探し始めた。  一歩、二歩と数歩ですぐに止まるとポケットから取り出した鍵でドアを開けた。中に入っていたのはセカンドバッグ。男はこっそりと中身を確認するとそのバッグを取り出し、更に紙を一枚取り出した。そしてコインロッカーに凭れ掛かりその紙へ軽く目を通すと折り畳んでポケットへ。  それから男はその場から離れようとするが、それを不意に聞こえて来た声が止めた。 「真壁芳樹」  踏み出した足を止め声のしたすぐ隣へ横目をやる。  男の隣には先程までを真似るようにロッカーに凭れたスカリの姿があった。腕組みをした見知らぬ女性に名前を口にされ、真壁は眉を顰める。 「誰だ?」 「私は神速スカリ、探偵さ」  静かにそう言うと挑発的に不敵な笑みを浮かべて見せるスカリ。 「なーんて。冗談」  だがすぐになんてことない笑みへと変化させると肩を竦めるように両手を広げた。 「まぁ完全に嘘って訳でも無いけど、何でも屋って言った方がいいのかも」 「だから?」 「吉川光里。それがあんたの恋人であり、私の依頼人の名前」  その名前に表情が先に反応を見せた真壁に対し、スカリは取り出したスマホで音声データを再生した。 『それじゃあまずは名前を』 『はい。吉川光里です』 『それでどんな依頼を?』 『実は……』  そこで音声は途切れたが真壁はサングラス越しに瞠目し、同時に何も言えずにいるい口は微かに開き唖然としていた。
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