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 とある小汚い飲食店の中にある隅の席。閉店してるのかと思う程にお客はいなかったが、唯一そこにはスカリと向かい合って吉川が座っていた。眼鏡を掛け長い髪は後ろで簡単に結んでおり、少し俯いた顔には表情を抜いても自信が足りてない。 「それでどんな依頼を?」 「実は……」  言い淀んだ吉川は言葉よりも先に目の前のコップへ手を伸ばし口を潤した。 「恋人が最近ちょっと変で」 「あぁーあ。浮気調査ってやつね」  ハッキリと言われ下唇を噛み締める彼女は今にも泪を零してしまいそうだった。その雫が何色に染まっているのかは、まだ彼女自身にしか分からない。 「相手の名前は?」 「真壁芳樹」 「仕事は?」 「会社員です」 「心当たりは?」 「いえ。キャバクラとかそういうお店にも行かない人ですし、ずっと真っすぐ私を愛してくれてました。一緒に住み始めてからは毎日幸せで。真面目な人なんです」  それを見れば如何に彼女との関係を知らなくとも恋人か夫の話をしていると分かってしまいそうな程に、吉川は幸福に満ちた表情を浮かべていた。 「ですが最近、帰りも遅くて、家にいても心ここにあらずというか、少し機嫌が悪いと言うか……」 「単にちょっと忙しいだけとか」 「最初は私もそう思ったんですけど……」  消えていく言葉を追うように吉川は視線を落とした。分かり易く沈んた視線は目の前に置いてある小さな水面を見つめていた。
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