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 イヤホンを外した真壁は何かを言う前にお茶へ手を伸ばした。 「と言う訳で私は現在、あんたの調査中。ご理解頂けたでしょうか?」 「はい」  グラスを口の前で止め、小さく返事をした真壁はまず喉を潤した。 「でも調査対象と直接会って依頼内容を口にするのっていいですか?」  風采こそ同じものの先程までとは口調も雰囲気もすっかり変わった真壁は呟くように尋ねた。落ち着き払った様子も相まり今の彼からは裏社会の人間というのは感じられなかった。 「そりゃあ、その通り」  パチンと鳴らした指はそのまま真っすぐ真壁を指した。 「光里……」  真壁は更に小さく呟くと今にも割砕いてしまいそうにグラスを握り締めた。同時に顔を俯かせ、その表情もそのサングラス越しの双眸も酷く沈んでいた。 「まぁでもここ数日、あんたを尾行してて別に浮気じゃないって分かったから。それよりももっと重大な秘密がありそうだし」 「秘密ですか……」 「私は普通の会社員って聞いてたんだけど――」  スカリは顔を上げた真壁の容姿を改めるように確認した。 「普通かどうかは分からないけど、少なくとも会社員には見えないかなぁ。いや、一応組織でその歯車の一人だし、そう言う意味では会社員なのかも?」 「そうです。自分は裏打組という組織の人間です」 「最初はいつも通りのなんてことない浮気調査かと思ったけど、意外と面白い事になってる?」  すると真壁はそのまま打ち付ける勢いで頭を下げた。 「この事はもう少し黙ってて下さい。自分の口からちゃんと話したいんで」 「報告もまだだし、別にいいけど。何なら浮気はしてないって報告してもいいし。私は私の仕事をちゃーんと出来て、あとの事はそっちの問題って事でも」  スカリは頬杖を突くと口角を緩めた。 「だけどその前に面白い話があれば聞きたいかなぁ」
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