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 年季が入り傾いた看板。それ同様に書かれた文字も今にも外れてしまいそうだった。 『ハングリーフル』  それは仄暗く、薄汚い路地裏に幽霊のように建つ飲食店。知る人ぞ知る、観光客だけでなく地元の人間でさえ知らない人の方が多そうな閑散とした場所だった。 「って感じでいつもとは違った依頼でさ」  吉川光里の依頼を受けたお店のカウンター席に座っていたスカリはフライ定食を食べていた。そんな彼女の向かいにあるキッチンに立っていたのは、黒を基調とした服装を身に纏い子供のように小柄なキッチン担当――ルエル・イール。ミディアムヘアの黒髪には黒いコック帽が乗り、表情は不機嫌そうだがどこか愛らしい女の子。 「てかよ。おめーに守秘義務って概念はねーのかよ!」  ただし口はその服装同様に黒い。 「どうせここから漏れるって事ないし」  そしてスカリの一つ席を開けた隣にも人影があった。白を基調とした服装の同じように小柄なホール担当――ベアル・ブゼルブル。白い頭巾から顔を見せる白銀のロングヘアは三つ編み混じりで、ルエルとは相反し柔らかな表情を浮かべた雲のような女の子だった。 「それは楽しそうですね」 「ていうかいいかげんここを事務所代わりにすんの止めろ!」 「まぁいいじゃん。いつもガラガラだし。むしろお客さんを呼んでる幸運の女神ってやつじゃ?」  自分で自分を指差すスカリは若干のドヤ顔を浮かべていた。 「てめぇのどの部分が女神なんだよ」 「この美しさ! とか」  スカリは座ったままポーズを取って見せた。  だがルエルの眉間にはそれとは相反し更に深く皺が寄る。 「雑種は感覚までとち狂ってんのか?」 「まぁまぁ。賑やかでいいじゃないですか」  するとドアの開く音が聞こえゆったりとした足取りの靴音が真っすぐカウンター席へと近づいた。その音はスカリに並ぶと椅子を引き隣へ腰を下ろした。
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