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「不意打ちとは言え中々やるな」  すると男は全身に力を込め――その上半身は服を破りながら蜥蜴へと姿を変えた。 「ブチのめしてやる!」  大きく吠えた男は太く尖鋭な爪を振り上げ――その一振りは消えたスカリの背後にあった壁へ深い爪痕を刻んだ。  一方でスカリは既に男の眼前へと迫っていた。そして男の視界に潜り込みそのまま拳を顔面へと放つ。しかしその一撃は易々と倍はある蜥蜴の手に掴まれ防がれてしまった。  だがスカリの表情は動だにしない。対してニヤり余裕の笑みを浮かべる男。  そして男は大きく口を開き掴んだ手を引きながら傷一つない顔へ噛み付こうと牙を伸ばす。しかし空いたもう片方の掌底が下から顎を突き上げた。眼前で強制的に閉じられた口に広がるのは嫌な血の味。同時に緩んだ手から拳は脱し、男は天井を仰ぐ。  一歩で後退したスカリだったが、透かさず一歩で再度間合いを詰めた。その間に依然と天井へ向けられた顔の両脇で降参と言うように上がった左右の手。視覚以外の何かで彼女との距離を感じ取っていたのか、見る事なく完璧タイミングでその両手は振り下ろされた。  しかし両爪は空を切り裂き、スカリの姿は傍の壁へ。地面代わりの足場として壁を蹴ると真っすぐ男へ接近。その勢いに乗せられた蹴りは顔面を捉えた。彼女よりも大きな体は宙を舞い反対の壁まで――それがその一撃の強烈さを物語っていた。  そして地面に倒れるとその男が立ち上がる事は無かった。 「この弱さは力の元と契約者、どっちの所為なんだか」  呆れ声で呟いたスカリにとってはまだ、中々叩けない蚊の方が強敵だったのかもしれない。
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