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 * * * * *  肌を焼く日差しが容赦なく照り付ける真夏日。その日は、街を歩いているだけで砂漠にでも遭難してしまったかと思わせるような暑さだった。 「あっつー」  半ズボンとサンダル、半袖のシャツを羽織った真壁は蝉の喧噪の中、公園のベンチで今にも溶けそうになっていた。背後に生えた木の影に守られながらもそれは無いよりはマシと言った程度。  すると何もやる気の起きないとダラリ座る真壁の隣へ人影がゆらゆらと幽霊のように腰掛けた。微かなベンチの揺れに反応するように真壁は横目をやる。  そこに前屈みで座っていたのは、バッグを手に長い髪を後ろで括った眼鏡の女性。頻りに汗の流れる顔を赤らめ、微かに開いた口で小さく呼吸を繰り返すその女性は吉川だった。体が火照り溢れ出した汗が肌を伝うのを感じていたが、少しぼーっとした頭にとってはどうでもいい事。兎に角今は座って――出来ることなら寝転がって休みたかった。 「えっ!」  一方で明らかに暑さの餌食となった彼女を隣で目にした真壁は慌てて立ち上がると吉川へ駆け寄った。 「大丈夫ですか?」 「え……。あぁ……はい。ちょっと暑くて……」  心配ないと微笑みを浮かべているつもりだったが、そのぎこちないなさは逆効果。 「ちょっと待っててください」  真壁はそう言うと近くの自販機へ向かい冷たい飲み物を二本買った。それを持って戻ると手早く一本を開け彼女に差し出す。 「とりあえずこれ飲んでください」 「すみません」  小さな声の後、太陽と敵対しているような白く細い腕が伸びペットボトルを手に取った。
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