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 エアードアを通り中へ入ったスカリを迎えたのは、雨だろうが夏だろうが冬だろうが関係ない時間の止まったような煌びやかな内装の店内。入り口から真っ直ぐ中央廊下が伸びており、左手にスロット台、右手にテーブル台が幾つも並んでいる。  スカリは辺りをざっと見回し、テーブル台へ向かう男の後姿を見つけると同じ方向へと足を進めた。  その途中、スカリは男を目で追っていた所為かチップを両手に持ったお腹同様に懐もふくよかそうな男性と軽くぶつかった。 「あっ、すみません」  反射神経を見せつけるかのように瞬時に手元のチップへ落ちないよう片手を伸ばしたスカリは男性に軽く頭を下げながら謝った。 「いやいや。いいよ」  そんな彼女に対し大勝ちでもしたのだろう心の余裕を持った男性は微笑みを浮かべ返事をした。  そしてそのまま男性と背を向け合ったスカリは、男が着いたテーブル台の手前のルーレットテーブルへ。 「スピニングアップ」  スカリが来るのを待っていたタイミングでディーラーはウィールにボールを投入。テーブル客の期待を背負った白いボールはぐるぐると勢い良く回り始めた。 「白? 黒? んー。オッドかな」  すると独り言を呟いたスカリは手品師の如く手元に黒いチップを一枚出した。それは先程、ぶつかった男性からくすねたチップだった。  彼女は言葉の後、そのチップをオッドの文字へ。くすねたチップをお客の振りをする為か何の躊躇も無く――むしろ心躍らせながら賭けた。そして期待に口元を緩ませながら回るボールの行く末を見守る。だがその視界端ではしっかりと前方のテーブルに立つ男を捉え続けていた。
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