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 するとその時。スキップを踏みながら回るボールは突然、大きく跳躍しウィールから宙へ大脱走した。賭けたテーブル客の視線を独り占めしながら空中へと飛び出したボールは、高い天井を背に弧を描きながら空中散歩。  そしてボールは隣のポーカーテーブルへと落ちていった。一番奥のお客の元まで飛んだボールは丁度、投げつけるように捲られた二枚のカードの上へ。 「くそっ! くそっ! くそっ!」  だがそんなボールなど見えていないのだろう勝負の結果に男は人目も憚らず声を荒げた。  そして怒りに身を任せた男が両手を振り上げると――。首筋の小さな紋様が独りでに光を放ち始め、それに呼応し彼の両腕は一瞬にして肥大した。人間より二回りほど大きなそれは誰が見ても明らかに常軌を逸している。  しかしその事に対し周囲が一驚に喫するより先に、男はその両腕をテーブルへと叩き付けた。勝利と敗北、その叫声はあれど決してカジノに響く事の無い轟音と共にテーブルは大きく破損。更にそれよりワンテンポの間を空けて、止まっていた時間が動き出し最初の悲鳴が上がる。  そこから伝染しカジノ内は瞬く間に混乱の渦に呑み込まれた。 「コントラクターだ!」 「コントラクターが暴れてるぞ! 逃げろ!」  そしてカジノ内は優雅に賭け事を楽しんでいた紳士淑女の一変した大声と我先に駆ける足音で瞬く間に溢れ返った。
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