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「はぁー。どうしよっかなぁ」  溜息を零しつつもスマホを取り出したスカリは、数回の操作をした後に耳元へ。 「もしもし? 今いいかな?」 『今? いやぁ、ちょっと……』  向こうから聞こえてきたのは若い男の爽やかな声。 「サクッと終わるから。ちょっとお願いがあるだけ」 『本当に今は時間が――』 「さんきゅー。それでお願いなんだけど」  それからほんの数分で通話は終わり、スカリの足は確実な目的地へと歩き始めた。彼女が真っすぐ向かった先は駅構内。 「さてさて。あとはどう探すか……か」  顎に手を当てながら視線で辺りを撫でたスカリだったが、それは一周する前に止まった。先にはあの男の姿が……。 「はっはーん」  手は顎から顔の前を通り頭上へと伸びていくとそのまま空を掴んだ。何かを探る様に何度も空振っては、最後に自分の頭へ触れる手。 「うっそーん!」  スカリは慌てた様子で両手を使い至る所を探り始めた。 「無い! ない! ナイ!」  彼女はサングラスからしてみればようやく、気が付いたらしい。 「落としたぁ」  一目も気にせずガックリと肩を落とすスカリ。  だがすぐに顔を上げると逃さぬ内に男を捉えた。 「まぁいいか」  そう呟くとスカリは男の後を付け始めた。人波に紛れながら男を密に追い続ける。その視線は背中を掴んで離さない。電車に乗る訳でもなく構内を歩き続ける男と近過ぎず遠過ぎない距離感を保ち続けては只管に後を追った。
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