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 フェイにとっては、なんてことはない、気楽な頼まれ事だった。  フェイの能力を持ってすれば、無いに等しいほど些細な荷物を自身が保有している空間に入れ、自身の翼を持ってすれば、瞬きするほどの距離を移動するだけ。  人の街に入るのは初めての経験だが、それすらも自分の能力を考えれば、ほんの少しでさえ危険はない。  むしろ、普段交わらない種族を垣間見る事が出来るので、少しワクワクしているくらいだ。  フェイはあっという間に、そのポタルからの頼まれ事をこなし、ソレきりその事を忘れてしまった。  その北の街、ボーガナルに至っては、前代未聞の幻獣種のおつかいという珍事に沸き、後世まで語り継がれることになるのだが……。  さて、時は過ぎ、フェイも成鳥し、新たな幻獣種を率いる長として奮闘していた。  この世界において、幻獣種は次々と生み出される。  生み出されてすぐは圧倒的な力を持ち、自由気ままに過ごすことも出来るが、力の偏りをならすため、やがてその天敵種が必ず生まれてくるか、遭遇することになる。  フェイの群れの天敵は、翼竜だ。 翼竜は古くからこの世界に君臨する幻獣種。  同種の能力を持つからこそ、捕食すれば、その能力を補強出来ることに気づかれてしまったのだ。  そこからは、弱肉強食の習い。  死力を尽くして、生きるために戦うしかない。  しかし、翼竜に比べ、新興種族で身体の小さなフェイの群れでは、圧倒的に不利な状況になりつつあった。  ある時、フェイは翼竜から群れを逃がした代わりに、自身は無理が祟ってボロボロになり、絶体絶命の危機に陥った。  しかし、もはやこれまで、と観念した瞬間、辺りは目も眩むような閃光に包まれる。  フェイ自身の視界も白く染まり、何が何だか分からなくなった。  フェイが意識を取り戻した時、其処には行商人の一行が額づいていた。 「我らは、貴方様の種族に恩を受けた者を祖としています。瑠璃色に輝く鳥の幻獣種を見かけたならば、何においても恩返しをするよう、固く言い伝えられております」  行商人の一行は、閃光弾によって翼竜を退け、その隙にフェイを助けたのだ。  フェイは一行の掲げている印が、遥か昔、気まぐれで他愛もない願いを聞き届けた時の行商人と同じモノであったことに、ようやく気がついた。    彼はあの時、何と言った?  必ず、恩を返す。  そう言ったのだ。  そして、その言葉通り、今、己の命は救われた。  フェイはその事を心に刻んだ。   ――――――情けは人の為ならず。 ソレは幻獣種にもいえることなのだ、と。
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