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02.琥珀色の液体
九州のとある県庁所在地でカフェ・レインキャッチャーという名のカフェを構える大橋翔太はそんなコーヒーアカデミーに入学し、そしてなんとか卒業まで漕ぎ着くことのできたひとり。
卒業後も何年に一度かの頻度で上京しては、そのとき一緒にアカデミーで学んだ仲間や先輩や後輩たちと集まることにしていた。カフェ業界の展示会に合わせて。
そんなふうにに集まった仲間たちは、最後に広瀬妙子のコーヒーテストを受けることになっている。彼女から学んだ技術が落ちていないか、コーヒーの味をキープしているかのチェックを受けるため。
もちろん、アカデミーは卒業しているので、今さら落第もないのだし、あの広瀬妙子からアドバイスを受けられるのはまたとない機会だけれど、やっぱり気が重くなるのは事実。
翔太をはじめとした仲間たちはアカデミーの片隅を借り、空いた時間があるとコーヒーを淹れ続けた。アカデミーを卒業したあとのコーヒー職人としての自分がすべて試されるから。
上京して数日が過ぎた今日も翔太は朝からコーヒーを淹れ、そして飲み続けた。もちろん、味見用なのでひと口程度のものだけれど。
けれど、そんな練習で摂取し続けたカフェインの影響なのか、緊張しているからなのか、なかなか寝付けそうもない。
翔太は腰を下ろしていたベッドから立ち上がり、液晶テレビの乗った壁際のテーブルの前の椅子を引き、そこに座った。ビジネスホテルのシングルルーム特有の手狭な部屋。テーブルの上には置きっぱなしのコンビニの袋。
翔太はコンビの袋からウィスキーの小瓶を取り出す。念のために近くのコンビニで買ってきたウィスキー。翔太は迷うことなく蓋を開け、注ぎ口から直接、琥珀色の液体を流し込んだ。
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