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05.それぞれの故郷
田島京介は翔太とともに広瀬妙子のもとで一緒にコーヒーにまつわるすべてを学んだ仲間。ときには喧嘩しながら、美味しいコーヒーを淹れるために悪戦苦闘した、戦友と言ってもいい仲間だ。
京介は最初のうち、会社に勤めながらコーヒーを学んだ。会社を辞めてコーヒーの世界に飛びこんだ翔太とは違って。けれど、彼はコーヒーアカデミーの過程の半ばくらいで会社を辞めた。アルバイトしながらコーヒー修行に打ち込むことを決めたのだった。
京介もまた翔太と同じく、それだけ本気でコーヒーを学び、カフェを経営する覚悟を決めたのだろう。その門をくぐっても、脱落する者が相次ぐという過酷さで有名な広瀬妙子のコーヒーアカデミーでの修行に専念するということは。
二人は似たような年齢と境遇ということもあり、すぐに意気投合した。二人と同じ時期にコーヒーアカデミーに入学した生徒は十人ほどいたけれど、卒業する頃には翔太と京介の二人だけだった。
もっともコーヒーを淹れる技術も、そこから生み出されるコーヒーの味も京介の方がずっと自分より上。翔太は一緒にコーヒーを学びはじめた最初からそう思っていた。はっきりと口には出さないまでも。
たとえば翔太が泳ぎを必死に練習し、二十五メートルプールをクロールでやっと泳げるようになったと思った頃、京介はすでに市の水泳大会で優勝していた、みたいな差を感じていた。だからこそ、翔太は必死で練習するしかなかった。京介についていくために。
そんな二年間の厳しい修行ののち、翔太と京介はそれぞれの故郷に帰り、そして自分たちのカフェを開いた。翔太は九州南部のとある県庁所在地で。京介は北関東の小さな都市で。
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