06.小さな駅の駅前通り

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06.小さな駅の駅前通り

 翔太は一度だけ京介の経営する店に行ったことがある。それはローカル線の小さな駅の駅前通りにあった。駅前通りとは言っても、平日の昼間には人の姿などほとんどいないような街。土日だって人々がそこを歩くのかもあやしいくらいの寂しい通りだった。 「この味なら、この県の県庁所在地あたりで店を出せただろ? 東京にだってもちろん。そっちの方が儲かりそうなものだけど」  京介の淹れたコーヒーをひと口じっくりと味わったあと、そう告げた。 「地元の商工会議所の補助金があったんだ。空き店舗に入居するって条件で。だから、自前の店を開けたんだよ」  客もまばらな店のカウンターで、京介は翔太のためのコーヒーを淹れながらそう笑った。 「それにこのあたりにはカフェというか喫茶店さえもない。つまりは競合もいない。だから、のんびり店を構えられるかなと思って」  その街は京介の生まれ故郷の小さな町に隣接する街だった。通った高校もこの街にあるという。 「なるほど。まったくなじみがないわけじゃないんだ」  翔太は店内を見まわす。こぢんまりとした店だけど、シンプルな落ち着いた店。テイクアウトが主体だが、店内にも狭いイートインスペースがある。そこでは中年の女性が三人で会話を楽しんでいた。
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