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07.裏の駐車場
「でも、悪い店じゃあないね。居心地はいいし、なによりもコーヒーが美味い。さすがだね」
翔太の言葉に苦笑する京介。
「なんだか初めて翔太に俺のコーヒーを褒められたな」
「でも、こんなに人通りの少ないところでやっていけるのか?」
翔太の言葉に京介はカウンターの内側から一枚のフライヤーを取り出した。秋の〇〇町民まつり。キッチンカーも多数参加予定。そんな文字の踊るフライヤー。
「そんなふうに祭みたいなイベントにもなるべく出店してるんだ。裏の駐車場に軽ワゴン車がある。キッチンカーみたいに器具をひととおり積み込んで、会場に行ってセッティングしてコーヒーを作る。こんなに田舎なんだ。人が集まるところに出向いて行かなきゃ」
そんなふうにして、なんとかやっていけているということだった。イートインコーナーの三人の中年女性たちが店を出て行ったあと、翔太は店の裏手に停めてある軽ワゴン車を見せてもらった。実家のある隣町からこの車に乗ってこの店に通っているとも言った。
「本当はちゃんと設備を作り込んだキッチンカーで、その場でできるサイドメニューなんかも出せると儲かるんだろうけど、まだそこまでの儲けは出てないからな」
「十分だよ。コーヒーを作って出すには」
そんな会話を交わして一年も経たなかった。京介が交通事故に遭い、右腕を切断したという知らせを翔太が受け取ったのは。
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