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留学から帰ってきて沙菜は変わってしまった。いまさら、ちさとがどんなに声をかけても頑なに拒む。ちさとが泣いても謝っても一緒にいようと懇願しても、沙菜は一人にしておいてと突き放す。大学の卒業式に最後に並んで撮った写真は二人、顔がこわばっていて沙菜は怒り、ちさとは泣き、どちらも不幸そうで、沙菜はその写真をちぎって速攻で捨てた。 そして卒業が縁の切れ目となって二人は別々の就職先へと進んでいった。新しい人生を切り開いていく。過去を捨てて。そんな決心を沙菜は不安定な精神のままで考えていた、夢は打ち砕かれる事になる。職場でパワハラを受けた。自分の限界を超えてもがんばってしまう沙菜の弱みにつけこんで仕事を回され押し付けられ、退社後は飲み会で潰された。ノーと言えなかった沙菜には恐怖心があった。できないことを恥だと感じた。そういう風土の会社だった。もともと極端な性格の沙菜は、良いこと、悪いことをはっきり区別し、自分の考えの中で悪いと思えば徹底して嫌った。自分なりの正義感も振りかざしていた。だんだんと沙菜は仕事において限界が迫ってきていた。 そんな時穏やかな風貌の二人組が自宅に訪問してきた。何か悩みはありませんか?今よりももっと幸福に生きれる人生の見方を勉強しませんか、私たちが話し相手になりますよ。沙菜に必要だったのは都合のよい話し相手だった。心にかかえていたどうにもならない葛藤を吐き出す居場所がほしくて。親身になってくれるから、宗教にも興味がわき始めた。付き合いが長くなればなるほどに沙菜は傾倒していった、宗教の人に言われるまま仕事をやめ、勧誘活動に熱心になった。生活を簡素にして、信じない親や友人との縁を切って、宗教だけに浸って幸せに生きなさい。 ちさとから、年賀状だけが毎年とどいていた。元気?いつか届けたいものがあるの。お返事ください。沙菜は毎年返信しなかった。
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