推しは神ともいえる存在である

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推しは神ともいえる存在である

テレビの中の君は燦然と輝きながら踊る。 わたしはいつだって君に恋をしている。 そのキラキラ輝く瞳も、 明るい笑顔も、ちょっと控えめなところも 全力で何かを頑張る君も すべて愛しい。 わたしはテレビの中の5人組を見てため息をついた。 歓声を浴びながら歌い踊る様はまさに アイドルである。 そう、彼らはアイドルグループ『happiness』。 「(すめらぎ)くんしか勝たんっ!!」 「ねーちゃんうるせぇ」 ソファに寝転がった弟、 伊月がゲームをしながら文句を言う。 「仕方ないじゃない! 皇くんがカッコ良すぎるのがいけないんだからっ!」 happinessのメンバーである 皇綺星(きせ)は私の推し! ビジュアルも性格も全てが神だ!! だから奇声をあげてしまうのは 仕方のないことなのだ。 彼に何度もファンレターを書いたことだってある。 返事が欲しいなんて やましい気持ちはない、ことはない、けれど。 私にとって皇綺星はこの世の全てを統べる神。 その笑顔が全世界で大爆発を起こすのだ。 それほどまでに私は皇くんが好き。 伊月はスマホ画面に目を向けたままため息をついた。 「ねーちゃんはテレビより、 現実の恋に目を向けた方がいいんじゃないの??」 「は?皇くんは テレビの男なんかじゃないんですけど? 私の現実(リアル)はテレビの中なんですけど?」 「めんどくせぇ……」 「愛梨亜(ありあ)!! 課題終わったの!?」 お母さんが料理をしながら振り返る。 あ。 「ちょっと待って! happinessの出番が終わるまで待って!!」 「ダメ!happinessの出番終わっても あんたYouTubeで綺星くんの動画見てるでしょっ いつもギリギリで課題するんだから!!」 「あぁっ!!」 お母さんがリモコンでテレビを消してしまった。 「お母さんのばかぁぁっ」 「はいはい、ちゃんと課題するのよ」 「うぅ、分かったよ……」 リビングを出て自分の部屋に向かう。 扉を開けるとそこには皇くんのポスターや 抱き枕、皇くんのサインなどが 部屋を飾り立てていた。 机の上の皇くんの写真をなぞると 切なさが込み上げてきた。 こんなに想っているのに 会えるのはテレビか、ライブだけ。 皇くんとの距離はあまりにも遠い。 芸能人と一般人だから当たり前だけど 悲しくなってしまう。 わたしはガチ恋をしてしまったのかもしれない。 でも、綺星くんがこの世に存在しているだけで ありがたいんだからそんなこと言ったら バチが当たる! 私は椅子に座りカバンから 数学の問題集を取り出したのだった。
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