推しが道端で転がっていた件

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推しが道端で転がっていた件

夕焼けが周りを橙色に染める景色の中、 その人物は転んだような格好で道端に倒れていた。 「う、うぅ……」 「あ、あの、大丈夫ですか?」 意を決して声を掛けると その人物は身じろぎをして私を見た。 サングラスとマスクをしていて顔はわからないけど めちゃくちゃ具合悪そう。 「おな……が……ぃて」 「え?」 「お腹が空いて、力が出ません」 水に濡れたアン◯◯マンみたいなことを言い残し、 その人物は地面に顔を突っ伏した。 嘘でしょ、お腹が空いて倒れたの? どんだけ飲まず食わずでいたのよこの人。 急いでカバンの中を漁ると、 自販機で買ったジュースが出てきた。 あと、美歩からもらったチョコレート3個。 お腹を満たすには物足りないかもしれないけど……。 「よ、良かったらこれ、どうぞ。」 チョコレートとジュースを差し出すと 彼は「いいんですか!?」と勢いよく 上半身を起こした。 「あ、はい、少ないかもしれませんが……」 「ありがとうございますっ!」 チョコレート3個を口に放り ジュースで流し込む。 「美味しいっ!!」  ……この声、どこかで 聞いたことあるような。 マスクを下ろした口元にあざがある。 もしかして…… いや、まさか。 わたしは恐る恐る思ったことを口にした。 「もしかして……happinessの皇くん?」 彼はビクッと方を震わせゆっくりと 私の方を見た。 「え? い、いやいやまさか!」 そう言いながらも顔を隠すようにマスクをする。 怪しい…… 「ち、ちょっとだけでいいからサングラス 外してもらえません?」 「いや、あの、これは 僕の体の一部なんで取り外し不可能です」 「そんなわけないでしょ ね? ちょっとだけ、ちょっとだけだからハァハァ」 「変態だぁっ!」 ほぼ無理やり、路上に押し倒しサングラスを外す。 その顔を見て驚きのあまり サングラスを落としてしまった。 猫のような大きく輝く瞳に高い鼻…… さっきのマスクの下の表情がパズルのように ぴったりとハマる。 「え、え、えぇぇーーーーっ!!!」 それは確かにテレビでよく見る大人気アイドル 皇綺星くんだった。
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