推しがポンコツでした

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推しがポンコツでした

今日は推しと過ごせる最後の日、 だったはずなんだけど……。 「ごめんなさい…… どうやら、僕、 お財布を持ってきてなかったみたいです…… しかも1週間後には台風が 東京に直撃するそうで……」 うん、やっぱり皇くんポンコツだわ。 でも、これもチャンス!! 「じゃあウチに好きなだけ泊まってよ!」 後ろで伊月とお父さんがドン引いているが 気にしない。 「でも、申し訳ないですよ!!」 きゅん。 気遣いのできる推し……イイッ!! 「いいの、いいの。 全然迷惑なんかじゃないですし。 皇くんがウチにいるだけで嬉しいからっ!」 鼻血を手で押さえながらもにっこり笑う。 「そ、それじゃあ、 お願いしてもいいのでしょうか? 本当にごめんなさい」 「「いいのよー」」 わたしとお母さんの声が被る。 さすがは親子。 こうして、皇くんはウチに しばらく滞在することになったんだけど…… 「す、皇くん……」 わたしは目の前に置かれた皿の上の真っ黒な 物体を見つめた。 「これは……一体……」 「え? ハンバーグですよ?」 は、はんばあぐ? これが、あの? 「食べてみてください! 結構上手に焼けたんですよ!」 皇くんはウチに泊まらせてもらうお礼にと 滞在期間中、食事を作ると張り切っていたんだけど それがなぜこんなことに? 目の前の楕円形の黒い物体はまるで まっくろくろすけである。 「うっ」 一口食べた伊月が顔を真っ青にして どこかへ駆けて行った。 多分、トイレだろう。 そ、そんなに不味いのか…… でも、推しの悲しい顔は見たくない! わたしは意を決して大口を開け ハンバーグを口に放った。 か、硬い。 しかも苦いし、超絶不味い。 なに入れたのこれ。 皇くんの期待がこもった眼差しを見てしまっては 不味いとはとても言えそうにない。 わたしは吐き気をなんとか堪えて笑顔を見せた。 「とても美味しいですっ!!」 「本当ですか!?」 皇くんが良かった〜と胸を撫で下ろす。 だけど、なんか胃がモヤモヤする。 な、なんか気持ち悪くなってきた。 伊月と入れ替わりでトイレに向かおうとするけど 吐き気を抑えきれず、あたしは さっき食べたハンバーグを 口からマーライオンのように盛大に吐き出した。 「うぉぉえぇぇあぉうえぇーっ!!!!」 あぁ、推しが見てる前で最悪…… そう思ったのを最後にわたしは 意識を手放したのでした。
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