推しとの1週間

1/1
前へ
/10ページ
次へ

推しとの1週間

目が覚めると、目の前に皇くんがいた。 心配そうな顔でわたしを覗き込んでいる。 「大丈夫ですか?」 え?  夢だよね、だって我が家に皇くんが 来るはずないもん。 「皇くん、大好き……」 フニャリと笑い皇くんに抱きつくと 彼の身体がビクッとなったのを感じた。 「わたし、ずっと皇くんのファンだったんだ。 だから夢でも皇くんに会えて どちゃくそ嬉しい」 「あ、あの、愛理亜さん!?」 ふぇ? 視線を上に向けると頬を赤らめた皇くんと 目が合った。 皇くんの体の感触にわたしは おとといの出来事を思い出した。 げ、ん、じ、つ、だ。 「ぎ、ぎゃぁぁぁぁぁっ!! ご、ごめんなさいっ!いきなり抱きついて!!! 決してやましい気持ちは……いや、なくはないけど いやとにかく違くて!!」 勢いよく後ずさると皇くんは ポカンとした表情を浮かべたあと おかしそうに笑った。 「愛理亜さんって可愛いですね」 ドーンッ。 胸キュンが大爆発を起こした。 胸が苦しいっ!! 「いや、あの、その。 あ、ありがとうございます……」 「それより、昨日はごめんなさい! 僕、料理下手なんですね……。 今更気付かされました……」 「い、いや、皇くんのせいではっ」 ないとは言い切れない……。 「僕のせいで愛理亜さんが倒れてしまったので 僕が責任を取って愛理亜さんのお世話をします!」 「え、えぇっ!?」 それから、皇くんは付きっきりで 私の介護をしてくれた。 神よ、最高の環境をありがとうございます。 「愛理亜さんって本当に僕のこと好きなんですね」 皇くんは、わたしの部屋を隅々まで見渡す。 皇くんグッズだらけで引くよね……。 「え、えへへ。ファンになったのはね 『アイドルラブ』を観てからなんです。 もちろん皇くんは容姿もかっこいいけど 好きになったのはそこだけじゃなくて 何事も真剣に向き合う真摯さとか どんなに辛い時でもアイドルとしてみんなを 笑顔にしているところとかもう全部 大好きになっちゃいました。」 にっこり笑うと皇くんは頬を赤く染めた。 「愛理亜さんも……」 「え?」 「いえ、何でもありません!!」 変な皇くん。 わたしはふふっと笑った。 あーあ、こんな幸せな日々がずーっと続いたら いいのにな。 その日からわたしと皇くんは こうして部屋で話すことが多くなった。 皇くんのポンコツエピソードを聞くのが 楽しくて、皇くんと友達みたいに 話せるのが嬉しくてわたしは 舞い上がっていたと思う。 どの瞬間も愛おしくて この時間を手放すのが惜しかった。 けれど恨めしいくらい時の流れは残酷で 皇くんは、明日東京に帰ってしまうことになった。 皇くんがプレゼントにくれた うさぎのキーホルダーを見て涙が溢れる。 皇くんが、帰ってしまうなんて嫌だよ。 あんなに仲良くなれたのに わたしたちは結局、芸能人と一般人に戻ってしまう。 それが本来あるべき姿だと分かっているのに 涙が止まらないのは何故だろう。 推しがたとえ結婚してもわたしは 応援する派なのにな。 「あと1回だけでいいからもっと話したいのに……」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加