あと一回、君に会いたい

1/1
前へ
/10ページ
次へ

あと一回、君に会いたい

「ねーちゃん……良かったのか?」 伊月がいつまでも閉まったドアを見つめている わたしに控えめに声を掛けてきた。 「良かったって、何が?」 「ねーちゃん、皇くんのことが好きなんだろ。 告白しなくて良かったのかよ」 「……何言ってんの伊月。 わたしは推しとして皇くんのことが 好きなだけだよ」 「めんどくさ。 ねーちゃんの目を見たら分かるよ。 皇くんのこと、本気で好きになったんだって」 そう言って伊月はチケットのようなものを 渡してきた。 「何これ」 わたしはそこに書いてあった文字に目を見開いた。 『happinessライブ』とある。 「さっき、皇くんに託されたんだよ。 愛理亜さんに渡してくれってな。 ねーちゃん、ライブに行かないつもりだったろ?」 ……確かに失恋を機にライブに行くのは やめにしようと思ってはいた。 「だけど、私情をライブに持ち込むのは」 「あー! めんどくせーな。別にいいじゃねーか。 ファンだって本気でアイドルを好きになっても。 ねーちゃんは変にわたしはファンだから〜とか 線引きして真面目すぎんだ!  普段は変態のくせに!」 「ちょっと! 最後のは余計でしょ!」 でもありがとう、伊月。 ちょっと勇気が出てきたかも。 「……そうだよね。ファンがアイドルを 好きになっちゃいけないなんてルールないもんね。」 わたしは手元のチケットを見て微笑んだ。 あと1回、君に会いたい。 だから、待ってて、皇くん。 わたし、来週のライブで想いを伝えるから。 たとえ、どんな結果になったとしても。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加