続D坂殺人事件

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続D坂殺人事件

 9月の初旬、あの白梅軒で起こった事件から半年ほど経った頃、再び同様の不穏な空気が私たちを包み始めた。  その日も私は、いつものようにD坂の白梅軒で冷しコーヒーを飲みながら、向かいの古本屋のことを思い返していた。あの密室殺人事件は、明智小五郎の鋭い推理で解決されたが、その真相は世間に衝撃を与え、今や都市伝説のように語り継がれている。しかし、平穏を取り戻したかに見えたこの町で、再び奇怪な事件が発生したのだ。  その日は、秋の風が涼しさを増していた。私は白梅軒で一人、新聞を広げていたところ、扉の向こうから聞き覚えのある足音が近づいてきた。 「やあ、久しぶりだね」  現れたのは、例の書生、明智小五郎だった。  彼はにこやかに挨拶をし、私の隣に座った。私はその姿を見て、半年ほど前の事件を思い出しながら、「また興味深い話を持ってきたのか?」と半ば冗談交じりに問いかけた。 「実は…」と、明智は少し顔を曇らせた。「どうも、あの事件を模倣したかのような、奇妙な事件が起こったようだ」  私は興味を引かれ、詳細を聞き出そうと身を乗り出した。明智は語り始めた。 「今度は、D坂から少し離れた場所にある新しい古本屋で、またもや美人の妻が絞殺されたんだ。奇妙なことに、犯行現場は再び密室と化していた。そして、その店の主人も完全なアリバイがあり、捜査は難航している。状況が前回の事件とあまりにも酷似しているため、警察は模倣犯の仕業だと考えているが、私には少し違う気がしてね」 「違うとは?」 「前回の事件の本質は、いわば歪んだ愛情表現の果ての事故だった。しかし、今回の事件は、もっと計画的な、そして冷酷なものだと感じるんだ」  明智の言葉に、私の胸に不安が広がった。もしも今回の事件が模倣犯の仕業でなく、さらに危険な犯人によるものだとしたら、この街は再び恐怖に包まれることになるだろう。 「その古本屋の主人は何か隠しているのか?」 「そうかもしれない。警察が調べても証拠は見つからなかったが、どうも彼の様子が普通ではない。何か重大な事実を隠しているようだ」 「では、我々の出番というわけか。」私は軽く冗談を交えて言ったが、明智の真剣な表情を見て、その考えが急に現実味を帯びてきた。 「そうだね。君も探偵小説が好きなら、この事件の真相を解き明かすのに協力してもらえるだろう?」  私たちはすぐに白梅軒を後にし、問題の古本屋へと向かった。町の人々が噂するように、その店はどこか不気味な雰囲気を醸し出していた。  店に入ると、主人が不自然な笑顔で迎えた。私はすぐに彼の動揺を察したが、明智は表向きは穏やかに挨拶を交わし、さりげなく店内を観察していた。  店の奥に進むと、前回と同じく、死体が発見された部屋があった。警察によって現場は封鎖されていたが、明智はなんとかして部屋を覗き込むことに成功した。部屋は相変わらず無惨な光景だったが、明智は何かを見つけたようで、その目が鋭く光った。 「この部屋、何かが違う…」明智はつぶやいた。 「何が違うんだ?」私は問うたが、明智は黙ったまま部屋を後にした。  外に出ると、彼は私にこう言った。「この事件には、まだ何か見逃している重要な手掛かりがある。君、ちょっと付き合ってくれないか?もう一度、白梅軒に戻ろう」  私は何も言わずに頷き、再び白梅軒に戻ることにした。明智の目には、何か新たな考えが浮かんでいるようだった。果たして、この新たな事件の真相は何なのか?そして、我々がそれを暴くことができるのか?それはまだ、この先に待っている謎だった。
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