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 その夜、俺はグリム兄弟の失われた日記を探し出すための手がかりを求めて、古い書物や資料に埋もれていた。書斎のランプが照らす薄暗い光の中、時が過ぎるのも忘れて調べ物に没頭していた。その時、窓の外で不意に激しい雷鳴が轟き、窓ガラスが震えた。嵐が近づいているのだろうか。気を引き締め、再び資料に目を落とそうとしたその瞬間、突然、電話が鳴り響いた。  時計を見ると、深夜2時を過ぎていた。この時間にかかってくる電話は、決して良い知らせではない。俺は一瞬ためらったが、受話器を取り上げた。 「もしもし?」  受話器の向こうからは、ざわざわとしたノイズが聞こえる。誰かがいるのか、よくわからなかった。俺がもう一度「もしもし?」と声をかけると、やがてかすかな声が聞こえてきた。 「……助けて……」  声は震えており、明らかに何かに怯えている様子だった。俺は緊張しながら、その声に耳を傾けた。 「誰だ?何があったんだ?」 「……影が……影が……来る……」  その瞬間、背筋が凍るような恐怖が俺を襲った。「影」という言葉が、再び俺の意識に深く突き刺さった。声の主が誰かはわからなかったが、その怯えた声はただ事ではないことを伝えていた。 「どこにいる?今すぐ助けに行くから、場所を教えてくれ!」  だが、その問いかけに対して返ってきたのは、再びノイズ混じりの声だけだった。 「……影が……見つけて……くる……」  そして、突然電話が切れた。俺は受話器を持ったまま、しばらく呆然としていた。誰が電話をかけてきたのか、そして「影」とは一体何なのか。  その瞬間、部屋の中が急に冷たく感じられた。何か異様な気配が漂っている。俺はゆっくりと立ち上がり、部屋の中を見回したが、何も変わった様子はない。  だが、その時、書斎のドアがゆっくりと開く音が聞こえた。俺は心臓が止まりそうな思いでドアの方を見た。そこには、誰もいない。  それでも、何かが確実にこちらを見つめているような気がした。まるで、影が生きているかのように、薄暗い部屋の隅で何かが動いているのだ。  恐怖に駆られた俺は、意を決してドアを閉め、部屋を出た。とにかく、この場所から離れなければならないと感じたのだ。家を飛び出し、夜の冷たい風が肌を刺す外へ出ると、暗い空からは大粒の雨が降り始めていた。  だが、道に出た瞬間、俺はある異変に気づいた。近所の家の明かりがすべて消えているのだ。まるで町全体が闇に包まれているかのようだった。そして、その闇の中から、再びあの恐ろしい言葉が頭に響いた。 「影が……見つけて……くる……」  恐怖に駆られるように俺は走り出した。だが、その時、遠くでサイレンの音が聞こえ、町の中心部にある警察署から光が漏れ出しているのが見えた。 「何が起こっているんだ……?」  俺は一瞬立ち止まり、恐怖に抗うように警察署へと向かった。だが、その夜、俺が目にすることになる光景は、決して忘れることのできないものだった。  警察署に近づくと、血の匂いが漂ってきた。中に入ると、そこには信じられない光景が広がっていた。警察官たちが無惨にも倒れており、その中には一人、何かを恐怖に満ちた顔で見つめながら絶命している者がいた。彼の手には、何かを指し示すような紙片が握られていた。  俺はその紙を拾い上げ、震える手で広げた。  そこにはただ一言、「影」とだけ書かれていた。
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