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最北の国【ノース王国】のとある住人は、空を見上げて伸びをしていた。
天気を見て、空気を全身に浴びながら伸びをする。
それから新聞を拾って朝食にありつく。これが朝の日課であった。
「な、ななななんじゃあ!?」
ふあーと両腕を広げて伸びていたら、灰色の空が突如黒く染まった。
まるで夜が訪れたように、影が広がるように。
開いた口が塞がらず、呆然としていると、再び灰色の空が垣間見えた。
暗黒魔境でも降って来たのかと焦ったわ。
というかこの影はどこから来たんだ?
視界の先は未だに暗い。
まるで雲ように影も動いている。
……ん?
どこへ行くんだ。
影はぐんぐん遠ざかる。
その先には、巨大な尖塔と豪華な意匠を持つ、王城がある。
ノース王国の王の居城がある都市、つまり王都の方面へと影が移動しているではないか。
イカン、イカンぞ!
「雨が降ってはイカン!天気も悪いし、さっさと飯食わねば、遅刻だわ」
降らなきゃいいなあ。
降られてもいいように、着替えも持っていこうかなあ。
そう思いながら新聞を拾って、食卓へと向かったのであった。
【ノース王国】王城、通称、竜舞城にて。
この日、新王即位の儀が行われ、ノース王国は湧いていた。
市民らは王都へ集結し、今か今かと王のお出ましを待った。
「ふっ、下民どものなんと喧しいことか」
新王は重たい正装を煩わしそうにしながら、城下からの歓声に顔を顰めていた。
「……陛下、準備はよろしいですか」
「父上を誅した我が、この国を統べる正統な王であると知らしめるためだ。下民どもに顔ぐらい見せてやらねばな」
「……はっ」
「不満そうだな、ロホス」
「……いえそのようなことは」
「お前を殺さずにいてやるのは、エリーゼのためだ。父たる貴様が陰謀に潰え、エリーゼと我の初夜が慟哭で汚されてはたまらんからなあ。クハハハクハハハ!」
「……くっ」
ロホスは面を下げて唇を噛み締めた。
この国の宰相として、前王の右腕として今すぐに愚王を殺してしまいたい。そんな心根を押し隠そうと、必死に耐えていた。
「さあ行くぞ」
新王はバルコニーへと赴き、城下の民衆へ手を振った。
「おおっ!」
「王様だ!」
「新たな時代だ!」
市民のボルテージは一気に加速し、まるで大きな咆哮のように歓声が沸き上がる。
「この愚民どもに、一つ演説でもしてやるか。拡声具を持て」
「はっ」
近衛騎士が持ち出したのは、拡声の魔道具。
竜の咆哮にも負けない音圧を発揮するとの触れ込みで有名な魔道具だ。
拡声具を支えるスタンドを調節し、ポンポンと拡声具を叩くと、民衆がバルコニーへと耳を寄せた。
「準備が整いました陛下」
「うむ」
新王は城下の民衆をじっくりと見渡し、小さく息を吸った。
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