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「我は王となった。王とは国の行く末を案じ、国の行く道を作り、国の行く先にある障害を取り除く。すなわち、我の覇道に国はあるッ!」
シンとする民衆たちの反応に、新王はため息をこらえた。
まったくバカに演説するのも一苦労だと言いたげに、一息吸って言葉を続ける。
「我がノース家が、この地にて建国したその日、大地を司る北域の神アースドラゴンが、上空で舞ったという。
そうッ!我の体に巡る血は、神に認められし尊きものなのだ」
「おおおっ!」
「うぉぉぉ!」
「ひゅー!」
「ぽーーっ!」
想定していた反応がやっと返ってきたことで、新王は気を良くしたのか、ニンマリと笑いながら歓声を鎮めた。
「今日この日、世界の北端たる死の岩床にて、アースドラゴンも我の戴冠を祝福していることだろう。我について来い!さすれば、永劫の富を約束してやろう!」
「ふぉぉぉぉ!」
「んぴょーーー!」
「みゃっほう!」
「にょんにー!」
王はさらに気を良くして歓声に浴する。時たま変な声が混じっていて、キモいなあと思いつつも「まあ愚民だから仕方ない」の一言で片付けていた。
一方、固く拳を握りしめ唇の血を拭うロホスは、王の背中を睨んでいた。
このクソボケ王は、必ず死なねばならない。今すぐに。
前王に注意されても娼婦を王城に招き入れ、メイドには手当たり次第に唾を付け、あろうことか、とある貴族家当主にあらぬ嫌疑をかけて処刑した後、未亡人となったその妻を手籠めにしたのだ。
それどころか?他国の初対面の王族に変態的な恋文を送り、あまりにもキモい内容だったので2国間の関係を悪化させたのだぞ。
いや他にも、政治のセンスもなければ勉強しようという気概もない。
それなのにだ。
前王を無能と罵り、用を足している無防備な瞬間に、魔法で強化した弓矢で射殺したのだぞ。
短剣でグサリとか、剣でもみ合ってとかそんなんじゃなくて、遠いところから無防備な背後を狙って射殺したのだ。
優しく寛大で、厳しい世界で我が国が生き抜くよう、日々苦心しながら国民のために働き詰めだった前王は、痔だったのだぞッ!
忙しい合間を縫って、苦しみに悶えながら用を足していたというのに!
マジで終わってるだろコイツ。
こんなんを王にさせてみろ。
民は貧困にあえぎ、国は道を見失い、我が娘は甘い春を失うであろう。
何もかも全部許せん!
しかし私が手を下しては、国が滅ぶ。
前王に忠実だった家臣たちは、ほぼ処刑された。
今も存続する貴族、政治を担う大臣連中は全て、アホ王の手の者。
私が、私だけがこの国をまともにできる良心なのだ。
耐えなければ。
娘には悪いが、耐えなければ。
願わくば、北域の神よ。大地を司るアースドラゴンよ。
かつて祝福されたノース王国を、お助けください。
この、クソボケゴミガス王を消してください。
「クッハハハハ。下民どもは面白いなあ。これから税金を上げまくってやるというのになあ。クハハハハ!ロホスよ。貴様の娘を呼べッ!今すぐに貫いてやるわ!クハハハ」
バルコニーから戻ってきた王は、ロホスの悔しそうな表情に舌舐めずりしながら、寝室へと向かおうとしたのだが……。
「ん?下民どもが静まったな。何故だ?」
歓声が突如静まり返ったので、王は気になり足を止めた。
そして振り返ってみると、夜のような闇夜が訪れているではないか。
「なんだッ!何が起きているッ!」
「……こ、これはまさか」
慌てふためく王とは裏腹に、ロホスは落ち着いていた。
というより、茫然自失になっていた。
「来てくださったのか」
ノース家初代当主が建国した日。
地上の松明が上空で踊り狂うドラゴンを照らし出したという伝説の日。
その日も、朝が夜になったという。
来たのか。
我が祈りを聞き届けてくださったか。
それとも、こんなに終わってる王を、廃するために……。
理由は何でもいい。
「ありがとうございますッ!さっさとコイツをぉぉぉぉぉぉぉ!」
ロホスはご乱心であった。
「は?な、ななな何をするバカ!離せ!」
王の腰元に縋りつき、逃げ出さないように捕らえたのだ。
「近衛騎士!何をしているのだ!こやつを引き剥がせ!」
王はロホスの頭に肘鉄を食らわせながら、騎士に命令するのだが……。
「アースドラゴン様だ」
「北域の神様がいらっしゃった」
「大地神様が……平伏しろ!」
ノース国民であれば当然、建国神話を知っている。
そして今日は、王の戴冠式。
ノース王国民たちは、皆が平伏していた。
騎士も貴族も大臣も。王とロホスを除いた、皆が等しくである。
すると、夜は白み始めた。
曇天から太陽が差し込み、国民たちは空を見上げる。
「こんにちは。この家の主に会いに来ました。ご在宅です?」
空中で浮遊しながらバルコニーを覗き込む1人の青年。
その圧倒的な魔力たるや、誰もが見紛うことのない存在。
「誰だ貴様!どうやって登ってきたのだ!下民が我に口を利くなど……処刑してやるわッ!つーか離せよロホス!」
唯一、王だけが見紛う。
「あなたが主です?ちょっとお尋ねしたいんですけど」
一方ドラゴンは緊張していた。
初めて喋った人間が、何故かめっちゃ怒っているから。
とても丁寧に接したはずだ。
まずは挨拶。それから敬語を使ったし、姿形だって人間型にした。見た目も普通の青年だ。
それなのに何故、この人間は怒っているのだ。
なんか地面を舐めてる人間もいっぱいいるし。
人間恐ろしや。
――――作者より――――
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