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「怒ってたんだ僕は、彼にね」
新王の暴挙がドラゴンの怒りを買ったのだと、人間たちは平伏し怯えていた。
こんな者を王に据えてしまった我々に、罰が下されるのではと。
しかし言葉の真意は別にあった。
苦しむ同族へ死を容易く与えてしまう者がいる。
その事実に感情が沸き立っていたのか。
これが怒りなのか。
そうやって、アースドラゴンは実感していただけであった。
「北域の支配者たる大地の神アースドラゴン様!ノース王国は王を欲しております。何卒、我らの導き手となる王をお与えください!」
「王って、必要なの?」
ロホスは黙り込んだ。
王は必要、なのだろうか。
他国では、市民から選出した者を国家の代表としたり、王の権限を制限して議会の力を強くしたりと様々な政治の体制が確立されている。
けれどこの国に馴染むかどうかは別だ。
王は……。
「今は必要、です。いずれ王制を廃するとしても、今は必要でございます、アースドラゴン様」
「そっかあ」
アースドラゴンは辺りを見回す。
城下に平伏していた人々よりも、随分と綺麗な装いをしている人間たちがいる。
「……無理だね。君らのことな~んにも分かんないもん」
「え?いや、そんな。ドラゴン様なら、そのお力でズバッと見抜けたり」
「才能を見抜くって?僕は無理だよ。うーん、そうだなあ。君がやれば?」
「……私ですかッ!?」
「うん。ロホス君だよね、君が王になればいいよ」
「……私は、王の器ではありません」
「じゃあ君が選びなよ。王の器を知ってる君なら、選び出せるでしょう?」
「……マジですか?」
「マジです」
ロホスは悩みに悩み、この場にいる閣僚や貴族と話し合った。
平時ならば、それぞれが色んな思惑で誰かを推挙するものだが、今日は違った。
「人間も大変だねえ」
隣に立っている青年こそ、世界最強のアースドラゴンなのだ。
しかもたった数分前に、王を殺した張本人。
「わ、私はロホス殿にお任せするぞ。うん」
「私も!」
「そうだな。ロホス殿が誰を選んでも応援しよう」
骨の髄までしゃぶりつくす連中が、骨抜きにされていた。
そりゃあそうだ。
権力欲しさに変なやつを王にしてみろ。
下手したら、慈悲もなく殺されてしまうのだから。
結局話し合いの意味はなく、ロホスが決断することに。
そして、選んだ人物とは。
「わ、私が王に!?」
「エリーゼ頼む!アースドラゴン様も認めてくださったのだ!お前にしかできん!頼む!私が全力で支えると誓うから、頼む!」
「マジですか父上」
「マジ」
城下は再び歓声に溢れた。
バルコニーで手を振るのは、地味な装いの少女エリーゼ。
引き攣った笑顔で、チラチラと隣の青年を見ていた。
「頑張ってねエリーゼ」
「かかかかかか畏まり、ました」
「ところでさあ」
「はい!?何でございましょう」
「友だちを探してるんだけど、どこにいるか分かる?」
「……その友だちのお名前はなんでしょう。必ずや探し出してみせます」
「いないよ、まだね。だから探してるんだ」
「……ハハハ、ハハハ」
意味不明な質問と、降って湧いた王座。
歪んだ笑顔で手を振りながら、失礼がないようにと、眼球はドラゴンを捉えている。
そんな彼女に、アースドラゴンの質問はあまりにも酷で、思考の息の根を止めるには十分だった。
「何か面白いの?」
「ハハハ、ブッヒャヒャヒャ」
「人間は変わってるね」
――――作者より――――
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