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「じゃあ、子どもになるよ?」
「はい。役職や立場にこだわらない子どもの友だちを作ることが、簡単であるとの結論に至りましたので、是非とも子どもの御姿におなりください」
「ふんッ」
ぐぐっと縮み、アースドラゴンは人間の子どもへと姿を変えた。年の頃は10歳程度で、黒髪黒目の、かなり普通の見た目だ。
「子どもが集う場所といえば、やはり学校。閉鎖された空間は小さな社会を生み出し、共通の目的を持つ者が集います。友だちを作るのに一番適しているでしょう、と会議で意見がありましたな」
「うん。そのために隣の国へ行けばいいんだね」
残念なことに、ノース王国には学校がない。
小規模ながら民間の私塾はあるものの、アースドラゴン降臨の噂は国中の知るところである。
だから、色眼鏡で見られることは必至。
であるなら、噂の足も遅いであろう隣国の大きな学校が良いだろうということになった。
「こちら、ささやかながら路銀でございます。使い方はお伝えしたとおりです」
「ありがとうね。初めて使うけど、上手くやってみるよ」
「アースドラゴン様、いやアスドーラ様。
くれぐれも力は抑え、使う場合は最小限に留めませ。あまりにも多量の魔力は、弱い生物にとって毒になり得ます。
さらには、敏い者に只人ではないと看破されてしまうやもしれません。もしもアースドラゴン様であるとバレてしまえば、友だち作りは困難を極めるでしょう」
「うん分かった!頑張ってみるよ」
世界最強のドラゴン。北域の支配者にして大地の神たるアースドラゴンは、人として生きるためアスドーラと名乗ることになった。
目指すは隣国にある、ラハール初等学校。
目的は言わずもがな、友だちを作るためである。
「アスドーラ様、道中お気をつけて」
わざわざ国境付近まで送ってくれた女王エリーゼと宰相ロホス。
それから、使命感に駆られた近衛騎士から大臣、貴族まで。
車列はもはや、賓客の護送レベルになっており、さすがの民衆たちも誰が乗っているのか察しがついていたようで……。
「アースドラゴン様!」
「ちっさくて、かわいいわアースドラゴン様!」
「やはり子どものお姿でも、隠しきれない神々しさがありますよアースドラゴン様!」
国境付近には民衆の大群が集っていた。
隣国にしてみれば、軍事的な緊張を覚える大事であるが、その辺は女王以下も、諦めているようだ。
「ありがとうエリーゼ、ロホス。なんか騒ぎになっちゃったね」
「騒ぎの範疇を超えておりますが、まあ、アスドーラ様をお見送りしたいと思うのは当然でございます。感謝しきれないご恩があるのですから」
「恩?なにかしたかな?」
「この国を、我々に任せていただけました」
「うん?そんなの当然じゃないかなあ。でも、ありがとうと言うのなら、どういたしましてだね」
「またお越しください。心よりお待ちしております」
「うん、いずれ必ず来るよ!バイバイ!」
アースドラゴン改め、アスドーラは森をひた歩いていた。
「この先に乗合馬車の待合小屋があるので、そちらでお待ちください」
とロホスに言われていたので、言葉を信じ歩き続けて、はや1時間。
「もしかして僕、迷った?」
一本道だから、整備された道を真っすぐ行けばいい、はずなのだが。
どこで迷ったのか、行けども行けども木しかない。
緑が茂る森の中、整備された様子はないけれど、とにかく真っすぐ進まなければ。
そんな想いでアスドーラは歩き続けた。
結果。
「おおっ!これが待合小屋だねえ」
さらに2時間歩いて、辿り着いた、まさかの小屋。
半ば諦めていたアスドーラは、一旦空へ飛んで上空から街を探そうと考えていた頃に、奇跡的に見つけた小屋。
こんな森の中にあるはずもない、乗合馬車の待合小屋。
誰にも見つからなそうな、人気のない場所にポツンと佇む小屋である。
「このムズムズ……ワクワクだねえ。ここで馬車を待つぞお!」
一般常識を持つ人なら、すぐさま逃走しそうな場所だが、アスドーラは小屋に近づき、あろうことか戸を叩いた。
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