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ざあああああ…………、冷たい風がセラの頬を撫でる。木々のざわめきが不気味な囁き声に聞こえる。時折、山羊のような鳴き声も風に乗って聞こえてくる。
ランタンを灯しているというのに、暗闇が彼女の周りを包んでいた。暗闇の奥から視線を感じるが、動物だろうと信じ、怯えずに、足を前へ、前へ、進めていく。その度にさくっさくっ……、枯れ葉の潰れる音が耳に流れてくる。足元には散り積もった葉が山のように重なり、独特のにおいを放っている。その中に混じる微かな腐敗臭が彼女の鼻を刺激した。
セラは森の中を何の目標も無く歩いている訳ではない。昼間のうちに、近くの村で森の歩き方を学んでいたのだ。穢れを持つ人は丁寧に教会への道を教えてくれた。
結論から言うと、森の奥に教会があることは事実であり、穢れを持つ人々を受け入れていることも本当のことであった。その情報だけでも、セラにとっては嬉しい誤算であった。
村で恋人のことを聞いてみるも「知らない」と答えられた。しかし「教会のシスターなら、何か知っているかもしれない」と言われたのだ。森の奥の教会ならば、彼の行方がわかるかもしれない。淡い期待が彼女の胸を満たしていた。
森の中を進むにつれて、足元に奇妙な文様の刻まれた石板が散らばっていることに気付いた。それは、教えてもらった教会へ続く道の目印であった。
やがてセラは、開けた場所へ辿り着く。教会の高くそびえる尖塔は星々を背にして、空に向かって祈りを捧げるかのようだった。朽ち果てているものだと思っていたが、白い壁には、壮麗さがある。その姿は、時間と共に忘れ去られた神の領域を象徴しているようにも見えた。教会の入口には重厚な木製の扉があり、鉄製の装飾が施されている。扉を少し押し開くと、内部からは冷たい空気が流れ出てきた。
セラは深呼吸し、その扉を一気に開いた。
内部には広々とした空間が広がっていた。意外にも照明が点いていたので、セラはそこまで忍び寄っていた闇が消え去るような清々しさを感じていた。
高い天井には緻密で見事なフレスコ画が描かれている。しかし、何を表しているものか彼女に理解できなかった。天使でも神の姿でもない。かといって悪魔が聖堂に描かれるわけがない。目を凝らしてよく画を見ていると、山羊のようにも見える。
セラが一歩ずつ教会の内部を進んでいくと、足音が広い空間に反響し、静寂がいっそう際立った。床は青白い大理石で、冷たい光沢が光に照らされて輝いていた。セラは周囲を見渡しながら、何かに導かれるように中央の祭壇へと近付いた。
中央の祭壇には美しい彫刻が施されている。燭台に立てられた蝋燭の柔らかな光が祭壇を照らし、神秘的な雰囲気を醸し出していた。
「アラアラマアマア! お客様でしたか! これは気付かずに申し訳ありませんわ」
祭壇の裏側から足音が聞こえてきたと思えば、セラの前に闇をも思わせるほど黒いローブを身に纏った女性が現れた。女性の瞳は左右で異なっており、右目は赤色、左目は緑色。顔は誰が見ても「美女」と言うほど整っていた。だが、彼女の瞳孔は地面に対して平行に裂けていることにセラは気付いた。
その瞬間、背中をゾワリ……と悪寒が降りていく。美しい聖堂が一気に恐ろしい儀式の間に思えてきたのだ。
コツン、コツン……、床を蹴る音が近付いてくる。黒いローブの美女は唇に微かに傾斜を描いた。ちらりと見えた歯は鋭く尖っており、肉食獣のようであった。
だが、ここまで来て帰る訳にはいかない。
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