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もうすぐ、もうすぐ、お生まれになりますよ。
なんの変哲もなく、なんの騒ぎもなく、なんの驚きもなく、淡々と、それでいて穏やかな日々の暮らしこそが「ほんとうのさいわい」であったことを、あたくしは知りませんでした。
瓦斯灯の明かりがチラリチラリと揺れることにさえ怯える日々が来ることも、あたくしは知りませんでした。
いつの日からか、些細な物音にすら敏感に飛び上がるほどの嫌悪感を持つようになってしまうくらい、あたくしの精神は摩耗し、粉となってしまっていたのです。
それというのも、子を体内に宿したことがきっかけでございます。
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