19.盗賊団

1/1
前へ
/19ページ
次へ

19.盗賊団

「ブラッド、大丈夫かしら……」  ブラッド様が盗賊団を討伐するために出かけてから、ずいぶん時間がたっている。もう外は暗くなり始めていた。 「ハロルド! 怪我の手当てを頼む!」 「ブラッド!?」  玄関の方から聞こえたブラッド様の声を聞いて、私は血の気が引いた。  怪我? ブラッド様が!? 私は慌ててブラッド様のもとに向かう。 「ブラッド! 怪我をしたの!? 大丈夫!?」 「ああ、ローラ。怪我をしたのは私ではない。モーリスだ」 「あはは、ちょっとしくじっちゃいました」  モーリスさんの左腕を縛っている布に血が染みている。  モーリスさんは「大した怪我じゃないんですよ」と笑った。そして、モーリスさんは言った。 「捕まえた盗賊団は、第三小隊長が城に連れて行きました。ブラッド様が俺の怪我を早く手当てしたほうが良いと言って、ここに連れてきてくれたんです」  ブラッド様は苦虫を嚙み潰したような顔をしている。 「このけだものをローラに近づけたくはないが、私をかばって怪我をしたのだから仕方ない」 「けだものって、ひどいですよ、ブラッド様」  モーリスがへらへらと笑いながら抗議をしていると、ハロルドが急ぎ足でやってきた。 「モーリス様、こちらへ」 「ハロルドさん、すいません」  モーリスはハロルドの案内に従って屋敷に入って行った。  残された私はブラッド様に尋ねた。 「ブラッドは怪我をしていない? 大丈夫?」 「ああ、私は大丈夫だ」  ブラッド様は優しい笑みを浮かべて私を見つめた。鎧のあちこちについているのは返り血だろうか。 「ブラッドとモーリスさんも、この後は城に行くのですか?」 「そうだ。事後処理がいろいろあるから、今夜は戻れないかもしれない」 「……わかりました。気を付けてね、ブラッド」  私が不安な気持ちでブラッドを見上げると、ブラッドは私のおでこにキスをした。 「なるべく早く帰る」 「あ、またブラッド様、奥様といちゃついてる!」  怪我の手当てを終えたモーリスが戻ってきた。 「その口をふさいでやろうか?」  モーリスさんをぎろりと睨む、ブラッド様の目が怖い。 「ローラ様、お騒がせして申し訳ありませんでした」  モーリス様が右手を差し出すと、またブラッドがその手を払った。 「何度言えばわかるんだ? ローラに触ろうとするな!」 「うわ、盗賊団を叩きのめした時より殺気を感じるんですけど!?」  モーリスは手を引っ込めて、私にウインクした。 「モーリス!! 殺されたいのか!?」 「やだなあ、ブラッド様。そんなに怒らないで下さいよ。それじゃあ、行ってきます」  モーリスさんとブラッド様が城に向けて屋敷を出て行った。 「モーリスさんとブラッドは仲がいいのかしら」  私は小さくなっていく二人の後姿を見送った。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加