番外編・誤解の星の下で(4)

1/1
前へ
/10ページ
次へ

番外編・誤解の星の下で(4)

「アルフォンス様、お疲れ様です」  ノックをして師団長室に入ると、ちょうどドアの横でケージに入ったハムスターに餌やりをしていたアルフォンス様と目が合った。 「お、シルヴィアか」 「……アルフォンス様のペットですか?」 「ああ、こいつか? 可愛いだろう。アレキサンダーというんだ」  ものすごく強そうな名前だが、アレキサンダーと名付けられたハムスターは丸くてモフモフで、頬袋をパンパンに膨らませていてとても可愛い。  アレキサンダーを手のひらに載せて頭を撫でてやるアルフォンス様も、いつになく穏やかな顔だ。 「とても可愛いですけど、ハムスターなんて飼ってましたっけ?」 「いや、最近飼い始めたんだ。ちょっと、ある人物からのプレッシャーから癒されたくてな……」  アルフォンス様が遠い目をする。やはり、王子で師団長ともなると色々とプレッシャーがあって大変なのかもしれない。 「そういえば、わざわざこんなところまで来て、どうしたんだ?」 「あ、そうでした。実は少々お伺いしたいことがありまして……」 「ああ、なんでも聞いてくれ」 「えっと、クリストフ様のことなんですが」  そう言いながらアルフォンス様のほうへ一歩近づくと、アルフォンス様が一歩後ろに下がった。 「あの、クリストフ様のことで」  また一歩近づくと、一歩下がられる。 「……アルフォンス様?」 「うむ、クリストフのことだろう?」 「いや、そうなんですけど……なんか距離感が遠くないですか?」 「君とは半径2メートルがベストな距離だと思ってね。気にせず話してくれ」  ベストな距離とは何だろうか。  全く意味不明だが、とりあえず話を進めることにしよう。  私は、最近クリストフ様が私のところへやって来る頻度が減ったこと、その代わりに騎士団の宿舎に通っているらしいということを明かした。  すると意外というべきか、案の定というべきか、アルフォンス様は「ああ!」と訳知り顔で大きく頷いた。  どうやら何か知っているらしい。 「アルフォンス様、何かご存知なんですか?」  私が尋ねると、アルフォンス様は思い出し笑いをしながら語り始めた。 「ああ、アレだろう? クリストフもあれだけ忙しいっていうのに、よくやるよな。男の甲斐性ってやつかな?」 「……男の甲斐性?」 「なんか、いろんな女性を試したらしいぞ」 「……いろんな女性を試す?」 「たしか、アリシア・ブラントが一番よかったって言ってたな」 「……アリシア……一番、よかった……」  アルフォンス様の証言を聞いて、私はショックのあまり灰になって飛んでいってしまうかと思った。 (なんてこと……完全に浮気じゃない……!)    これはもう、浮気の疑い(・・)ではなく、完璧に真っ黒ということで間違いないだろう。 「クリストフ様、信じていたのに……!」  愛しい人からのこっぴどい裏切りにあい、私は怒りに燃えた。  こうなったらすべて白状させ、クリストフ様と浮気相手から慰謝料をがっぽりせしめでもしないと気が済まない。  魔女を怒らせたらどうなるか、思い知らせてやろう。    静かに怒りをたたえる私を見て怯えたのか、アルフォンス様が冷や汗を垂らしながら「……あれ、もしかしてまだ話してなかった……?」とかなんとか言っているが、今はアルフォンス様に構っている暇などない。  私はクリストフ様を問い詰めるべく、適当に挨拶をして部屋を飛び出し、彼を探しに騎士団の建物がある区画へと向かった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加