5. 大団円

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5. 大団円

「結婚しましょう」 「…………え?」  突然のプロポーズに、クリストフ様は両目を見開き、呆然とした様子で私を見つめる。 「クリストフ様、初めてお会いしたときに一目惚れしました。あなたのことが大好きです。どうか私と結婚してください」  一言ひとこと真心を込めて気持ちを伝えると、クリストフ様は綺麗な青い瞳を涙で潤ませた。 「い、いいのか……? こんなみっともない俺でも……」 「何を言ってるんですか。クリストフ様は最高にカッコいいです。私こそ、辺境の森に住む田舎者ですが、よろしいですか?」 「君みたいに可愛らしい人は王都にだっていない」 「クリストフ様……」 「シルヴィア……」  私とクリストフ様の視線が熱く絡み合う。そんなお砂糖たっぷりの甘い世界から、一人こっそり抜け出そうとする男がいた。 「い、いや〜、よく分からんが、割れ鍋に綴じ蓋ってやつかな? じゃ、お邪魔虫は退散ということで……」  愛想笑いを浮かべながらこの場を去ろうとするアルフォンス様を、クリストフ様が見逃すはずはなかった。 「……殿下、逃げる気ですか?」 「ははっ、まさかそんな訳ないだろう……」 「そうですよね。まさか、無実の俺を勝手に疑った挙げ句、あんな恥ずかしい思いまでさせて、何の責任も取らずに逃げるなんてこと、殿下がするはずないですよね」  クリストフ様の言葉が巨大なプレッシャーとなってアルフォンス様にのしかかる。 「す、すまない……ご希望があれば何なりと……」  引きつった表情で冷や汗を垂らすアルフォンス様に、クリストフ様がニヤリと笑って見せた。 ◇◇◇  それから一週間後。  私はお城の離宮の庭園で、今や婚約中の恋人同士となったクリストフ様とのデートを楽しんでいた。 「えっ、ではクリストフ様は私を探しに辺境の森まで来てくださっていたんですか?」 「ああ、本当は出会った後すぐ探しに行きたかったんだが、仕事が立て込んでいて時間がかかってしまった。ようやく休暇が取れてから、君のことを調べて森を訪ね、やっと家を探し当てたと思ったら、もぬけの殻だったから落ち込んだよ」 「あ……きっとアルフォンス様の依頼を引き受けて王都に出てしまった頃ですね」  まさかそんなすれ違いが起こっていたなんて夢にも思わなかった。 「それで、がっかりしたまま仕事に戻ると、新しい魔術師を紹介されて、その姿が君にそっくりだったから驚いた」 「……まあ、本人だったんですけどね……。でも、それならすぐ声を掛けてくださればよかったのに」  少しだけ拗ねたようにそう言うと、クリストフ様が耳を赤くしながら呟いた。 「…………もし話しかけて、俺のことを覚えてもらえてなかったら、もしアルフォンス殿下のことが好きだなんて言われたらと思うと怖くて……」 (えっ、何これ可愛いんですけど……)  自信なさげにシュンとするイケメンの破壊力が凄まじい。  キュン死にしかけたところから何とか意識を取り戻しつつ、クリストフ様に返事をする。 「アルフォンス様より、クリストフ様のほうが断然カッコいいです。私の一番はクリストフ様です」 「シルヴィア……」  いい雰囲気で二人見つめ合っていると、向こうから師団の遣いがやって来た。 「クリストフ様に、シ、シルヴィア様、お邪魔して申し訳ありません……」  ものすごく腰を低くして恐縮しながらやって来たのは、例の三馬鹿の一人だった。彼らは最近、クリストフ様に雑用としてこき使われているようで、心無しかゲッソリしている。  ちなみに、彼らが馬糞まみれになったのは、私に呪いの力が備わったからではなくて、クリストフ様が魔法で転ばせて懲らしめてくれたらしい。 「何の用だ?」  デートを邪魔され、クリストフ様が不機嫌そうに尋ねると、三馬鹿その一がびくりとしながら答えた。 「師団長──アルフォンス殿下が、休暇の申請を許可するから、ゆっくり帰ってくるようにとのことです……」 「分かった」  ぺこぺこ頭を下げながら去っていく三馬鹿その一が見えなくなると、クリストフ様が私の手を取った。 「シルヴィア、これで俺も一緒に行けるな」 「荷物を取りに家に帰るだけですよ」 「人手は多いほうが助かるだろう? それに、何日も君と離れて過ごすなんて耐えられない」 「……もう」  突然の甘い言葉に思わず頬を染める私を、クリストフ様が抱きしめる。 「シルヴィアは本当に可愛いな。君と結婚できるなんて夢みたいだ」 「ふふ、アルフォンス様のおかげですね」 「ああ、前はシルヴィアに馴れ馴れしく近づくたびに腹が立って、ついつい睨んでしまったが、少しは感謝しないといけないな」  そう、私たちはもうすぐ結婚する。  そして、それはアルフォンス様のおかげでもあった。そもそも、私たちが相思相愛だったことに気づけたのもアルフォンス様のおかげのようなものだったが、彼はもう一つ重要な役目を果たしてくれた。 「でも、私の後見人になってくださるとは思いませんでした。あの無理やりの自白を相当反省されたんですね」  アルフォンス様が私の後見人になってくださったおかげで、元々平民だった私でも、侯爵令息であるクリストフ様と結婚できるようになったのだ。 「ああ、そうだな。それと、俺とシルヴィアの結婚を応援してくれたら、謀反の阻止と黒幕の特定を侯爵家が全力で手助けすると伝えたんだ。二つ返事で引き受けてくれたよ」 「ふふ、さすがクリストフ様は抜かりないですね。デキる男の人って素敵です」 「君と結婚できるなら、何だってやるさ」 「クリストフ様……」 「シルヴィア……」  そっと目を閉じれば、クリストフ様の優しいキスの雨が降ってきた。  ──それから、優秀なクリストフ様はたった三日で謀反の黒幕を見つけ出して企みを潰し、私たちは何の憂いもないまま盛大な式を挙げ、誰もが羨む幸せおしどり夫婦となって、まもなく男の子を授かったけれど、クリストフ様がヤキモチを焼いてとんでもない甘えん坊になってしまったのは、また別のお話……。
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