20人が本棚に入れています
本棚に追加
番外編・誤解の星の下で(2)
〜〜遡ること一週間前〜〜
俺は、この国の王弟であり、魔術師団長でもあるアルフォンス・ラインフェルト殿下に呼び出されて、魔術師団の建物内にある師団長室を訪れていた。
「殿下、俺に話って何ですか?」
「ああ、クリストフ。実はシルヴィアのことなんだが」
「……シルヴィアのこと?」
「そうだ……っておい、彼女を話題に出すだけで殺し屋みたいな目で見るのはやめろ」
アルフォンス殿下が引いたような顔で俺を見た後、軽く咳払いをして本題に戻る。
「……とにかく、シルヴィアのことで提案があってだな。彼女には今まで一人で自由に過ごしてもらっていたが、私を後見人として君と婚約したことで、誰かに狙われる可能性もある」
「シルヴィアが、狙われる……?」
「ああ、政治的な野心を持った連中だとか、私たちに恨みを持っている奴らもいるからな。特に最近は謀反の芽を潰してやったばかりだ。根に持っている者もいるかもしれない」
「なるほど……」
たしかに、あり得ない話ではない。俺やアルフォンス殿下に手出しできなくても彼女ならと考えるクズがいてもおかしくないだろう。
シルヴィアと二人で過ごせる幸せな日々に夢中で、今まで思い至らなかったのが悔やまれる。
そして俺よりも先にシルヴィアの身の危険に気付いた殿下が妬ましくて仕方ない。嫉妬のこもった目で見つめれば、アルフォンス殿下がふいと目を逸らして続けた。
「……そういう訳だから、これからは彼女に危険が及ばないよう、護衛騎士をつけたほうがいいのではないかと思ってな。彼女は私やお前のように攻撃魔法が得意な訳でもないし、万が一何かあっては困るだろう」
「護衛騎士……」
非常に悔しくはあるが、殿下の言っていることはもっともだ。
シルヴィアの安全のことを思えば、専属の護衛騎士をつけるのが一番安心だ。
だが、しかし──。
「……殿下、俺がシルヴィアの護衛をするのはどうでしょう?」
「はぁ? お前が護衛? そんなもんダメに決まってるだろう。国の筆頭魔術師ともあろう奴が、仕事はどうするんだ」
俺の提案は即行で却下された。
「シルヴィアが心配なのは分かるが、王宮騎士団の中から腕利きの騎士を選んでやるから安心しろ」
殿下が俺をなだめるように、そんなことを言う。
だが、シルヴィアの安全の心配ももちろんそうなのだが、俺の一番の心配は別のところにあった。
「えーと、騎士団の精鋭と言えば誰がいたかな? アレックスにパトリックに……たしかレナードも強かったな」
殿下が護衛騎士の有力候補の名前を次々に挙げていく。
その度に胸の奥から何とも言えない不快感が込み上げてくる。
(くそ、全員男じゃないか……!)
しかも全員そこそこ顔の整った若い男だ。そんな奴らを護衛騎士なんかにして常時シルヴィアの側に侍らせるわけにはいかない。みんなシルヴィアの愛らしさに骨抜きにされて手を出そうとするに違いないからだ。
それに、あの可憐で純粋なシルヴィアがそんなことをする訳がないと分かっているし、疑いを抱くだけで万死に値するが、仮に、もし万が一にでもシルヴィアがそいつに心移りでもしてしまったら、俺はその瞬間屍と化し、もう生きてはいけないだろう。
しかし、俺の嫉妬のせいでシルヴィアの安全を疎かにする訳にもいかない。
俺はまだつらつらと他の男どもの名前を出し続ける殿下をひと睨みすると、意を決して言った。
「俺がシルヴィアに相応しい護衛を見つけます────ただし、女性騎士の」
「女性騎士? たしかに騎士団には優秀な女性騎士もいるが……どうしても筋力的な面で男性騎士には敵わないぞ。それでも構わないのか?」
「騎士の実力は筋力だけではありませんし、最悪その辺は魔道具でフォローします。シルヴィアにどこの馬の骨とも知れない男をあてがうよりはマシです」
「馬の骨って……一応皆きちんとした家門出身の実力者なのだが……」
きちんとした貴族の令息だろうが、申し分のない実力を持っていようが、俺のシルヴィアに邪な想いを抱くおそれのある時点で、安心して任せられたものではない。
かといって魔術師団の仕事で多忙な俺がずっとシルヴィアについているのは難しいため、落とし所として女性騎士を護衛につけることに決めたのだった。
「護衛まで男はダメだとか、お前は嫉妬深すぎだろう」
呆れたように殿下が言うが、俺に言わせれば護衛だからこそ男なんてもっての外なのだ。
常に側にいて自分を護る男だなんて、女性が憧れない訳がない。そんなリスクを負うのは危険すぎる。
「嫉妬深くて何が悪いんですか。言っておきますが、俺は殿下にも嫉妬してますから。いくら後見人といえど、馴れ馴れしく彼女に触れないでください。あと、半径2メートル以内に近づかないでください」
「お、おう……」
俺は殿下に言いたいことを伝えると、早速シルヴィアの護衛に適任な女性騎士を探すべく、騎士団の訓練場へと向かったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!