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今日から小学4年生の夏休みが始まった。僕と幼なじみの紗綾、そして同じく幼なじみである竜聖の三人は、学校の近くにある森に来ている。心臓がドキドキと高鳴る。どうして森に行くことになったのか? それは、夏休み直前の出来事に遡る。
夏休み直前の放課後、保健室から教室に戻ってきた竜聖が小さな声で「知ってる? 学校の近くに森があるだろ? その森に財宝が隠されているって伝説があるんだ。夏休みになったら冒険に行こうよ」と話しかけてきたのが発端だ。そのとき教室にいたのは、僕と紗綾と竜聖の三人だけだった。
竜聖が自分から積極的に話しかけてくるなんて滅多にないことだ。3年生の時に交通事故に遭って入院したのをきっかけに不登校だった竜聖は、最近やっと学校に来られるようになったばかり。それでも教室にいるときもあれば保健室にいることもあり、クラスメイトとほとんど話さない。僕は伝説の話以上に、竜聖が話しかけてきたことに驚いた。
「どんな伝説なの? 面白そう」 活発な性格の紗綾は、すぐに興味を示した。 「聞いたことないなぁ。その話、どこで聞いたの?」 僕は尋ねた。
「この前、おじいちゃんから聞いたんだ。昔、この辺りに住んでいた森賊が隠した財宝なんだって」 竜聖が興奮気味に言う。
紗綾は「わぁ、すごい! 探しに行こうよ!」と目を輝かせた。 僕は少し躊躇した。「うーん、面白そうだけど…危なくないかな? 子供たちだけで森の中に入るのは」
僕は二人の顔を見て、深く考え込んだ。確かに危険かもしれない。でも、竜聖が久しぶりに学校に来て、僕たちに話しかけてくれたんだ。この機会を逃したら、また竜聖は閉じこもってしまうかもしれないという思いもあった。
「わかった。行こう」 そう僕が言うと、竜聖の顔が明るくなった。 「よかった。幼稚園のときから知り合いの渉と紗綾なら、行ってくれるかもって期待していたからさ」 「行くに決まってるじゃん。ねえ、渉?」 「う、うん」 不安だったけれども、紗綾の勢いに押されて僕は頷いた。
そうして僕たちは、財宝探しをするために森にやって来たんだ。
僕たちは家族に内緒で計画を立て、準備を整えてきた。天気は快晴、気分は最高潮。いよいよ冒険の始まりだ。
森の入り口に着くと、僕たちは少し緊張した。本当に入っても大丈夫だろうか? そんな不安が頭をよぎる。
「ねえ、本当に大丈夫かな?」僕が声を上げると、紗綾が「大丈夫だよ! 私たち、去年の林間学校で森登りしたじゃん」と笑顔で答えた。
竜聖も「うん、それに僕、おじいちゃんから聞いた話を元に簡単な地図を描いたんだ」と言って、ノートを取り出した。
確かに、去年の林間学校のことを思い出すと少し安心できた。それに、竜聖が一生懸命準備してくれたことを思うと、今さら引き返すわけにはいかない。
「よし、行こう!」僕が声を上げると、三人で森道に足を踏み入れた。
木々の間から漏れる光が眩しく、鳥のさえずりが聞こえる。僕たちは竜聖の持つ手書きの地図を頼りに、ゆっくりと森を登っていく。
しばらく歩くと、急に紗綾が「きゃっ!」と叫んだ。振り返ると、紗綾が地面に座り込んでいた。 「大丈夫?」僕が声をかけると、紗綾は顔をしかめながら「うん...でも、膝が痛い」と答えた。見ると、膝から血が滲んでいる。
そのとき、竜聖がリュックから絆創膏を取り出し、「ほ、ほら、これ貼ろう」と紗綾に渡した。 「ありがとう、竜聖」 紗綾が笑顔で礼を言うと、竜聖は少し照れたような表情を見せた。僕は、紗綾と竜聖が微笑み合っているのを見て、少し複雑な気持ちになった。
「さあ、行こう」 僕は二人を促した。そこで、紗綾のことを好きになっている自分に初めて気付いた。
僕たちは竜聖の持つ地図を頼りに、ひたすら森の奥へと進んでいく。少しずつ日差しが強くなってきた。木々の間から漏れる光が眩しくなり、じわじわと汗が流れる。
「ねえ、ちょっと休憩しない?」 紗綾の提案に、僕も竜聖も頷いた。
大きな木の根元に腰を下ろし、ペットボトルに入ったスポーツドリンクを飲む。事前に決めていたわけじゃないけど、三人とも用意してきた飲み物は同じだった。ぬるいけど、喉を通り抜けていく感覚が心地よい。
休憩中、竜聖が「ねえ、みんな」と小さな声で呼びかけてきた。 「何?」僕が聞き返すと、竜聖は言いよどんでいる。何か言いたいことがあるようだ。
その言葉の続きを聞く前に、紗綾が「あ! 蝶々だ!」と叫び、急に立ち上がり、走り出した。
僕たちも立ち上がり、紗綾の後を追いかけた。
歩けば歩くほど疲れが溜まっていく。額には汗が滲み、足も重くなってきた。そんな中、突然竜聖の姿が見えなくなった。
「竜聖! 竜聖!」 僕と紗綾は声を張り上げて叫んだ。しかし、いくら叫んでも、竜聖からの返事はない。
「どうしよう...」 紗綾の声が震えている。
「きっと近くにいるはずだ。探そう」 僕も焦っていたが、なんとか冷静さを保とうと深呼吸をした。
僕たちは必死に周りを探し回った。木々の間を縫うように歩き、時々立ち止まっては耳を澄ます。そんな中、竜聖の力ない声が聞こえてきた。
「あっちだ!」と紗綾が指さす方向に走り出す。
しばらく走ると、そこに竜聖がいた。木の根っこに足を取られて転んでいたらしい。
「大丈夫? 転んだら、すぐに言ってよ」 「う、うん...ごめん、心配かけて」 竜聖は申し訳なさそうな表情を浮かべている。
そのとき、竜聖が突然口を開いた。 「実は...宝物の話、嘘なんだ」 「え?」 僕と紗綾は驚いて顔を見合わせた。
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