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魔王城の1階にある四天王専用の休憩室。リーダーのランガオウは、パイプ椅子に深々と腰を下ろし、ため息をついた。
ランガオウは、クマの頭と人間の体を持つモンスターである。
「グルメボマーめ...一体、どこに行ってしまったのだ」
数時間前、四天王の問題児として名高いグルメボマーの失踪が、部下のドラゴンから報告されたのだ。グルメボマーはオレンジ色の丸い体に、人間のような手足、そして全身の3分の1程の大きさな口が特徴のゼリー状のモンスター。その口は、人間サイズの食べ物を丸呑みできるほどだ。
ランガオウが頭を抱えていると、突如、城内に警報が鳴り響いた。
「第3倉庫への侵入を確認! 繰り返します! 第3倉庫への侵入を確認!」
「なにぃ!」
ランガオウは椅子から飛び上がった。第3倉庫といえば...魔王お気に入りの菓子コレクションがある場所ではないか。
息を切らしながら第3倉庫に駆け付けると、案の定、グルメボマーが口いっぱいにクッキーとチョコレートを頬張っていた。その丸い体は、食べ過ぎて気球のように膨らんでいる。
「ランガオウ様...これは...」
グルメボマーは言葉を濁す。ランガオウは凍りついた。魔王のお菓子を、自分の部下が食い荒らしている現場を目撃してしまったのだ。上司として、この責任は重大だ。
「グルメボマー、貴様...」
しかし、叱責の言葉を発する前に、グルメボマーは猛スピードで姿を消した。
その日の夜遅く。ランガオウが最後の見回りをしていると、第3倉庫から物音が。
ドア前にグルメボマーが設置したと思われる『工事中! 立ち入り禁止!』の看板が立っていて、ドア付近にある警報装置の電源はオフにしてある。
そっと覗くと...
「グルメボマー! またか!」
案の定、グルメボマーが再び、補充したばかりのお菓子を食べていた。グルメボマーは付け髭と黒縁眼鏡をかけ、背中に白い文字で「私はグルメボマーではありません」と書かれた真っ赤なTシャツを着ていた。
ランガオウはドアのところまで歩き、看板を手刀で真っ二つに割ってから、頭を抱えた。
と、そこにコツンコツンと靴を鳴らしながら魔王が現れた。
「はっはっはっ、ランガオウ、お前の指導力は30点といったところだな」
「なぜ魔王様がここに? 出張中では?」
あたふたするランガオウ。
「実はな、これは全て私が仕掛けた、抜き打ちチェックだ。お前が四天王のリーダーとして適任かどうかを試すためのな。それと、だ。今回、グルメボマーに協力してもらった。お前がどのように問題に対処するか、どう部下を指導するか、見ていたのだよ」
ランガオウは、グルメボマーを睨みながら絶句した。しかし、部下の前で、魔王に「お前の指導力は30点といったところだな」と言われたことが恥ずかしくて顔を赤らめた。グルメボマーは、ランガオウの顔を見ながらニヤけている。
「申し訳ございません...」
ランガオウは深々と頭を下げた。すると、魔王は首を振った。
「しかし、お前なりに努力はしていた。それは認める。今回の経験を活かし、より良きリーダーになるのだぞ」
「ありがとうございます。必ずや、魔王様のご期待に応えてみせます」
ランガオウは、深々と頭を下げた。すると、魔王は満足げに笑った。
「期待しているぞ」
「はい!」
ランガオウは張り切った。
しかし、その瞬間、勇者一行が颯爽と現れた。魔王とランガオウ、グルメボマーは、勇者たちに約15分で倒されてしまった。
「あれ? 意外と楽勝だったな。俺、自慢じゃないけど、あと一回ぐらい魔王たちと戦える体力が残ってるぞ」
勇者の声が、魔王城に響く。
そのとき、勇者が放った魔法によりドロドロと溶け出したグルメボマーと談笑する勇者たちの背後で、魔王とランガオウの体がピクリと動いた。魔王とランガオウの目が合う。
(今だ! おそらく、チャンスはあと一回だろう。同時に行くぞ)
魔王がランガオウに向かって、口パクで指示を出した。
しかし、ランガオウは魔王の口の動きを読み取れず、「え? 何て?」と声を出してしまった。
すると、魔法使いのエレンがランガオウの声に素早く気づいた。「あ、ランガオウ! まだ完全に倒してなかったみたい。あと一回で、今度こそ確実にやらなきゃ!」
勇者一行は振り返り、全員が口を大きく開けて驚く。
エレンは、「こら! ランガオウめ!」と半泣きで怒る魔王を視認しながら呪文を唱え始めた。
と、そこで倒されたはずのグルメボマーが一瞬で元の姿に戻り、気球のように膨らみ始めた。
「うおおおお! 究極奥義・スイーツグルメ・ストーム!」
グルメボマーの口から、体内にあった無数のお菓子が勇者たちに向かって飛び散った。クッキーとチョコレートの嵐が勇者たちを襲う。
「うわあああ!」「目が開けられない!」「うわ、口の中に入った! 甘い!」
勇者たちは、グルメボマーの技により全滅した。
「グルメボマー...」
魔王は立ち上がり、恐ろしい形相でグルメボマーを睨む。
「は、はい」
グルメボマーの身体は恐怖により、震えた。
「よくやった。今から、お前を四天王の新リーダーに任命する。ランガオウには、グルメボマーが就いていた副リーダーになってもらう」
「あ、ありがとうございます」
グルメボマーは信じられない展開に、恥ずかしがりながら喜んだ。
ランガオウが「はっ!」と立ち上がり、「グルメボマー...おめでとう」と大きな拍手をした。
──その時、ランガオウは考えた。
私は明後日のバースデーで2700歳になる。随分と動きが鈍くなった。身体のケアを入念に行えば、2800歳までは現役で頑張れるだろうが…おそらく、年齢的に再びリーダーになれるチャンスは、あと一回だろう。そのチャンスを必ずモノにしてみせる。グルメボマーに負けてたまるか! 絶対にリーダーの座を奪い返してみせる! しかし、先ほどのグルメボマーの技は見事だった、と。
ランガオウは嬉しそうに飛び跳ねるグルメボマーを見て、闘志を燃やしながら微笑んだ。
(了)
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