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仲の良いライバル
「栄転、おめでとう!! 佐伯くん!!」
「ありがとうございます! 僕が結果を残せたのは、全て平島支店の皆様によるサポートのお陰です。寂しい気持ちでいっぱいですが、東京本社に異動しても、より一層頑張って参ります!」
「………」
大手商社の田舎支店…もとい、平島支店。
従業員数12名の小さな支店から、本社に異動を命じられた人が出た。支店始まって以来、初めてのことだ。
今回異動するのは、営業担当の佐伯祐司。30歳。
かなりやり手な営業担当で、平島支店では考えられないくらいの新規顧客を捕まえ、数々の実績を積み重ねて行った。
そんな佐伯の様子を一番遠くから眺める、同じく営業担当の新開希未。28歳。
同僚たちが佐伯に花束などを渡している様子を、窓にもたれかかりながら呆然と眺めていた。
「ほら、新開。君は良いのか? 佐伯と仲が良かっただろ?」
「…仲が良かったからこそ、良いのです。ここから眺めているくらいで」
「とか言いつつ、寂しくて悲しくて、本当は沢山話したいんじゃないの?」
「なら、支店長。そう思うなら佐伯くんの異動、取り消してきて下さい」
「………それは、難しいな」
「でしょう」
軽く頭を掻きながら、支店長は佐伯を取り囲む輪に入って行った。
皆が佐伯の肩を叩きながら、思い思いに言葉を掛ける。その光景に、新開はただただ溜息をつくしか無かった。
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