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歩き続けた2人は、駅前に辿り着いた。
駅舎の前に設置されている大きな噴水の縁には、沢山のカップルが腰を掛けおり、各々が逢瀬を重ねている。
「……新開さん」
「…何」
噴水から少し離れた場所にあるベンチが空いていた。
そこに新開と佐伯も腰を掛け、お互いの身体にもたれ合う。
仄かに感じる体温。
それにまた、2人とも静かに涙を流す。
「何で、泣いているの」
「そういう佐伯くんこそ」
傍から見れば、別れる寸前のカップルそのもの。
まさか先程両想いだったという事実を知り、しかも明日から片方は遠くに行ってしまうなんて、誰も予想すらできないだろう。
駅の方から電車が入って来る音楽が聞こえ始めた。
ガタンゴトン…と音を鳴らしながら、徐々に速度を緩めて停車をする電車。
それを見た新開は、ふと言葉を漏らす。
「佐伯くん、あれに乗って行くの?」
「…うん。あれに乗る」
「…そうなんだ。…今日の朝まで佐伯くんが異動することを知らなかったのに。何だか、展開が急すぎて…頭が追い付かないや」
「……」
また、2人の間に訪れる静寂。
小さく溜息をついた佐伯はそっと新開の肩を抱いて、呟くように言葉を発した。
「……遠距離は、嫌?」
「……え?」
「僕、このまま終わりにしたくない」
「……」
予想外の言葉に、新開の身体が固まる。
そしてより多くの涙を零し、佐伯の身体に抱きついた。
「…遠距離、嫌じゃない。私も…佐伯くんとここで終わりにしたくない…!」
強く、強く。痛みを感じるくらいお互いを抱き締め合い、涙を零す不器用な2人。
身体を離し、お互い顔を見つめ合う。
そして、それぞれが両手で頬に触れ、優しく微笑んだ。
「新開さん、大好き」
「私も…佐伯くん、大好き」
周りに人がいることを気に留めず。
2人は微笑んだまま、優しくそっとキスをした。
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