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【プロローグ】
哲哉の手を引いて、どんどん歩く真由実。
何も言えずについてゆく、哲哉は思っていた。
…………いきなり電話してきて、早く原稿もってこいやって急かすから来たのに、あんな言い方されたら…………そりゃあ、怒るだろうな…………まぁ……あの編集者だけじゃなくて、ここは全体的に感じ悪いし……真由実が席を蹴って、出てきてくれて…………これでよかったのかも……。
通路を曲がって、そのまま進み、エレベーターに乗り込んだ真由実は下の階へのボタンを押してから、ぽつりと言った。
「…………ごめん」
「……ん?? なにが?」哲哉は聞いた。
エレベーターのドアが閉まると、真由実は述べた。
「…………。……わたし、感情だけで、生きてる、よね……」
哲哉「??」
真由実「……わたしのわがままに……付き合わせちゃって……ごめん……」
哲哉「……いいんだよ」
真由実「……」
哲哉「真由実がわがままと思ったことは一度もないよ」
真由実「……」
哲哉「……あの言い方はひどいじゃないか。……アンタの代わりなんか、いくらでもいるんですよ、バカなんですか? ……なんてさ。こっちは最初から何も要求してないし、こうじゃなきゃ嫌だ、と条件つけてるわけでもないんだ」
真由実「……」
哲哉「……真由実がどんなに真剣に作品へ向き合ってるのか、僕は隣で見ているからよくわかる……」
真由実「……」
哲哉「……他にも出版社はあるって。……こことは縁がなかったんだよ。……ここと契約したら、描きたいものが描けなくなっちゃって……後ほど厄介なことになったかもしれない」
「……て……てっちゃん……」
振り向いた真由実が顔を胸に埋めてきたので、哲哉は「ぉっと……」と言いながら、彼女を支えた。
「……ごめんね、ごめんねぇ……ぃっつも、ぁりがとぅ、しゅき……」
泣き声に近い声を出す真由実に哲哉は困った。
「……ん、ん、うん。僕も好き。好きだよ。……あっ、そうだ。……僕の大事にしてるもの、後で見せようかな。真由実……きっと驚くと思うなぁ〜……後のお楽しみにしてて」
「……ぅ、うん、うん……てっちゃん、すき……。てっちゃんが、いなきゃ、わたしダメぇ……」
真由実は彼に抱きついたままで離れなかった。
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