想い、想われ、振り、消えた。

1/2
前へ
/2ページ
次へ
ずっと後悔している。 最後に手を繋いで買い物をしたのは、 もういつかだったか思い出せないこと。 いつからババアと呼ぶようになってしまったのか わからないこと。 毎日頑張って作ってくれているお弁当に いつも美味しいと言えなかったこと。 怒られても結局そっちが折れてしまうから、 素直にごめんねができなかったこと。 疲れている中自分のお願いを聞いてもらうのが 当たり前だと思っていたこと。 あの日、下らないことで喧嘩したこと。 俺の母は津波でいなくなった。 何も残らなかった。 全てを波に持っていかれた。 周りには、自分と似たような境遇の人が多かった。 だけど一ミリも気持ちは楽にならなかった。 この話だって、きっと同じような話はいくつも転がっている。 二番煎じと言われるだろうか。 もう聞き飽きたと言われるだろうか。 だけど、ずっと後悔している。 忘れ去られて行く記憶の中で、 都合よくテレビで取り扱われる特集とは違う。 未だに海が見える場所では、 すぐに逃げられるような高台を探してしまう習慣がついた。 今日は母の命日だ。 本当の命日かは分からない。 もしかしたら数日はずっと海の上で 希望を持っていたのかもしれない。 そう思うと、どうしても海を見るのが怖かった。 だけど、今日はこの小瓶をあなたに届けたいと思う。 小さいので中にはあまり便箋が入らなかったから、 昔使っていたキャラクターの書かれているメモ用紙に書いてきた。 親不孝な息子が、 最後に届けたいと思った言葉はあまりに短いものだった。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加