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「紡、読みたいって言ってた本持ってきたよ」病室のドアを開けながら、ヘッドボードに寄りかかる紡に話しかけた。
紡はこちらを見て「ありがと」と目を細める。窓から入る逆光を帯びた病衣姿の紡の微笑みは、そこはかとなく儚げだった。
三ヶ月前、原因不明の腹痛が続いた紡は、病院で診察を受けた。その結果、即入院となり、今も病室生活を続けている。
すぐ治るからと再三言われ、病気の詳細は頑なに教えてくれなかった。一方で、当初から治ったらしたいことを楽しそうに話す紡を見ると、さほど心配することでもないのだろうと考えていた。そして昨日、紡から『二週間後に退院できる』という連絡があった。
図書館で借りてきた本を数冊入れた紙袋を紡に渡し、スツールに腰掛ける。
「調子どう? 退院が決まって本当に良かった」
「うん、おかげさまで」紡は天井を眺めながら返答する。
最近の紡には、あの日見た命を凌駕するほどの笑顔がなかった。三ヶ月もの間入院するというのはさすがに気が滅入るだろう、と誰でも思いつく陳腐な想像を巡らせる。
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