香り高くて儚い嘘

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「今日ね、紡の行きつけのカフェに行って、『共依存』読んできたよ」  紡は、どうだった? と胡桃のような丸い目を向ける。 「それが、いいところでエスプレッソこぼしちゃってさ⋯⋯続き気になるから、また明日読みに行くよ」 「まーたエスプレッソ飲んだの? あの苦い汁のどこがいいんだろ」 「子どもだなぁ、紡は」  少し膨れた紡に、悠人は顔を綻ばせた。「紡はホットミルクが好きだもんな。今度カフェラテに挑戦してみ」  無理だよーと微笑する紡に、エスプレッソをこぼした理由を話した。 「見て、その手紙に桜の花びらが挟まってて」悠人は花びらを掌に置いて見せた。「桜ってまだ咲いてないよね?」 「去年のかな」 「でも、萎れてるように見えないんだよな」  空気を入れ替えるために開けていた窓から冷たい春疾風が入ってきた。刹那、掌に載せた一枚の花びらが花曇りの空へ昇っていく。  今日は春分の日だというのに、外はコートやダウン姿の人ばかりだった。一つ身震いをして、立ち上がり窓を閉める。  悠人君? と消えそうな声が背後から聞こえた。振り向いて眉を上げる。
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