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「えっ…?何も無いわよ?大丈夫」
香澄はどこか無理したような笑顔で俺を見上げた。
「…香澄。俺は、そんなに頼りない男か?俺達、付き合ってるじゃねーか」
俺が香澄の目を真っ直ぐに見てそう言った時、彼女の目が一瞬揺らいだ。
だが…。
「頼りなくなんかない!私、今度のデート、楽しみにしてるんだから」
「…ああ。映画を観た後、公園で昼飯食うんだったな」
香澄は料理は出来ねーから、俺が2人分の弁当を作っていく事になっている。
だが、俺等は会話がいつもみてーに続かねー。
香澄…俺にも言えねー事、何か隠してるな。
俺は直ぐ隣を歩く香澄の俯きがちな姿を見て、そう確信した。
結局、言葉すくねーまま、古屋敷の前まで辿り着いた。
「…じゃあな、香澄。受験勉強、頑張れよ」
「ありがと、千夜くん。又、明日ね?」
香澄に見送られながら、俺はメットを被るとバイクに跨った。
バックミラーに映る香澄が小さく手を振っている。
俺は片腕を挙げて応えると、バイクを千夜組の屋敷に向かって走らせた。
「…好きだからこそ、言えないこともあるんだから…」
香澄の小せー呟きは、俺の耳には届かなかった。
「坊ちゃん、お帰りなさいやせ!ケーキの材料は買い揃えてありますぜ」
屋敷の玄関にあたる引き戸を開けると、田中が出迎えてくれた。
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