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まあ、出迎えはいつもの事だが。
「ああ。今、部屋着に着替えてくる。先に厨房で待っててくれ」
「かしこまりやした。…坊ちゃん?」
「?何だよ?」
「何か考え事ですかい?心ここにあらずって感じがしますぜ?」
「ああ。香澄の事で、ちとな」
「香澄お嬢さんが、どうかされたんですかい?」
「なーんか、俺に隠してる気がしてならねー。ま、今夜あたり鈴木に相談してみるさ」
「そうですか…。解りやした。あっしは厨房で待ってますぜ」
田中と一旦、別れて俺は自室へ向かった。
だが…。
「坊ちゃん?オーブンが鳴りやしたぜ。…坊ちゃん?」
香澄の様子が頭から離れねー俺は、田中の声に急いでオーブンの扉を開ける。
と。
「あっち!」
「坊ちゃん?!大丈夫ですかい?!」
俺らしくもなく、オーブンの淵に手が触れ、火傷しちまった。
田中が慌てて駆け寄るのを反対の手で制すと、火傷した手に生肉を巻く。
こうしてると肉が火傷の熱をとってくれるからだ。
応急処置には最適だな。
「ちと火傷しただけだ。ケーキ作りは続けられそうだぜ」
「そうですかい?あまり無理はしないで下せえ」
心配そうな田中に返事をすると、俺は引き続き、シフォンケーキ作りに取り掛かった。
だが…。
「…ケーキに邪念が入っているな」
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