新たな一歩

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親父の居室。 親父は、俺の作ったケーキをひと口食うと、そう吐き捨てた。 親父には、俺が香澄の事で、ケーキ作りに集中出来なかったのを見抜かれたらしい。 ひと口食って、フォークを置く。 「いつも以上に出来が悪い。こんなケーキでワシが本当に満足すると思ったのか?」 「頭!幾ら何でも言い過ぎですぜ!」 田中が庇ってくれるが、親父の言っている事は間違っちゃいねー。 「田中、良いんだ。…親父、次回はもっと美味いの作ってくる」 「当たり前だ。…保、パティシエの道は、そんなに甘くないぞ」 「…解ってるさ。行くぞ、田中」 「は、はい!」 俺は親父が残したケーキとフォークを手に取ると、早々に親父の居室を後にした。 夜。 俺は鈴木と山村とグループ通話をしていた。 『諸橋さんの異変に気付くとは、流石千夜くんです。問題は、どう諸橋さんの心を開かせるかですが…』 『デートの時に、もう一回訊いた方が良いんじゃない??』 山村はそう言うが、下手にしつこく訊いても、香澄の事だ。 余計に自分の殻に閉じこもっちまう気がする。 鈴木も俺と同じ事を思ったらしい。 『とりあえずデートの約束はされているのですから、その時に諸橋さんから話してくれるかどうかですね』 「俺も、そう思う。だが、それでも香澄が話し出さなかったら、どうすりゃ良いんだ…」
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