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快晴に空気は軽やかに澄んで、太陽は肌を焦がす。
スマホには、鯨が尾を上げて海面を叩く様子が映し出されている。
小さな画面に映るそのおぞましさに堪らなくなって、私は視線を波打ち際にさらした足指に移す。戯れる冷たさが心地良い。
歩けば、とどめた砂の跡は波に消える。そうして私の辿りは波が持って行ってしまって、いつか届くのだろうか。
あれから、私は真哉さんに
『たからものを見つけました。』
とダイレクトメッセージを送った。
そうしたら返信が来た。
『もう忘れられているかと思った。それか僕が、夏の妖精に会ってしまっただけじゃないかって。』
その言葉を見るたび、頬が緩んでしまう。
模様のついたフタを取って押す。
細やかな霧吹きは潮に混ざって、汗ばんだ肌に吸い付いた。深く呼吸をする。また体を満たして馴染んでいく。
香水瓶を撫でると小さく滑らかで硬い。そのまま手首に指を滑らせてから鼓動を確認した。
波の速度よりも速くて儚い。血潮が記憶を巡らせる。
葉擦れの音がする。波よ波よと瑚を鳴らす。
それらは重なってさざめいていた。
私は海に向いた。そうして、しばらく見つめていた。
〈了〉
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