2話

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「ただいまー」   家に帰ると即座に部屋に籠もり、ベッドに横たわった。  大分にいたときは、帰宅してすぐにベッドに寝転ぶなんてことはしなかったのに、ここ最近は毎日だ。  今日一日が終えられたと考えると、若干、腹の痛みはおさまるものの、明日また登校すると考えると、どこからともなく締め付けられる。 (このまま毎日学校に行くしかないのかな……)  だとしたらあまりに……。  ただでさえ、住んでいる環境ががらりと変化して、それによるストレスが蓄積されている。  前に住んでいた場所は、学校以外にもたくさんの逃げ場所があった。  家の近所の公園や、小さな滝、祖父が所有していた山。  それに近所の知り合いのおじさんおばさんに、まだ小学生の幼い友人たち。あるいは、高校生のお兄さん。  そこに逃げこめば、いつでも心を癒すことができた。  でも今はどうだ。  隣人と顔も合わせない狭いアパート。  山もなければ自然もない。  あるとすれば、道端の並木か神社の大木くらい。  いつもそこらじゅうに人や車が走っていて、1人でぼーっとする時間もとれない河川敷。  もともとここで生まれ育った人間にとっては、そこまで悪くはない場所なのだろう。  しかし突然投げ込まれた水川にとっては、あまりに情報量が多く、無意識に疲れが蓄積される場所だった。  どこにも逃げ場所はない。  どこにも今の自分を癒やす場所はないのだ。 (……いや、唯一ある)
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