2話

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 結局、逃げる選択肢がなくなった。 「よっしゃー昼休み!」  四限目終了のチャイムが鳴ると、みんな机を移動し始める。  昼食兼、昼休みの始まりだ。  このクラスでは、仲良し集団で机を引っ付けて一緒に昼食を食べる。  もちろん、朝陽はこの島に加わったことはないけれど。 (はあ……)  決して広くはない教室のなかに、4〜5人で集まった7つほどのグループができた。  それを横目に、朝陽はリュックから弁当を取り出す。  口に運んでも、かすかに食材の味はするものの、味覚には響かない。  母が気合いをいれて作ってくれる色とりどりのお弁当を、これほど惨めな状況で食べなくてはいけない現実が、申し訳なかった。  ため息をつきながら窓の外を眺めていると、とつぜん視界に人影が入り込む。  ぎょっとして見上げた瞬間、本来逸らさないといけないはずの視線を合わせてしまった。 (や、やばい……)  運が悪いというか、もともとの鈍臭い性格を、この時にかぎって発動してしまったというか。 「あ?」  予想通り、金髪の男がこちらをぎろり睨みつけてくる。  今日は休みかと思っていたが、どうやら今、登校してきたらしい。  彼は睨みつけたまま制止している。 (なにか言わなきゃ……なにか……)    考えれば考えるほど頭の中の歯車が狂い、思考が四方に散る。  朝陽が硬直していると、二人の間にはどんどん無音の空間が広がっていく。   (もういいや)  ほとんど投げやりに、沸騰しそうな頭でとっさに口にしたのは、 「お、おはよう……」  という何の変哲もない挨拶。  秋吉の目尻がピクリと反応したように見えた。  しかしそれだけで、彼は表情一つ変えず、挨拶に応えてくれることはなく、こちらを睨み続けてくる。  なんでこんなことを口にしてしまったのだろう。  押し寄せてくる恐怖と後悔、羞恥心。  彼のとめどない視線が、自分のとった行為を非難されているように思い、朝陽の心と体はどんどん萎縮していく。  沈黙に耐えられなくなった朝陽が彼の視線から逃げようとしたそのとき、ようやく秋吉が興味をなくしたように顔をそむけた。  朝陽はふうーっと息を吐く。 (助かった……)  
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