3話

4/11
前へ
/83ページ
次へ
   あの言葉通り、社会見学の日、秋吉は学校に来なかった。  口ではああ言っていたが、もしかしたら気まぐれで来る可能性もあるかもしれない。 そう思っていたのに。 「なんだ一人か?」 「はい」  結局、朝陽は一人でバスに乗り、ほとんど誰とも話さず一日を終えた。    唯一話したのは、例によってあの担任の松村だ。  朝陽を無理やり輪のなかに連れ出そうとはしなかったものの、一人でいるところを見かけるたびに何かと話しかけてきた。 「大丈夫か? 酔ってないか?」 「大丈夫です」 「もうすぐ着くからな」 「はい……」  松村はうまく取り繕っているのかもしれないが、自分だってバカじゃない。気を遣われていることをひしひしと感じた。  今まで、少ないながらも友達がいた朝陽は、"一人でいるのを心配して話しかけられる”という経験をしたことはなかったのだ。  経験してわかったが、多少なりとも自尊心が傷つく。  これなら秋吉みたいに、「いやだ」とか「行かない」「嫌い」とズバズバ言ってくれたほうがまだマシだ。もちろん、腹は立つけども。  松村に言葉を投げかけられるたび、プライドはすり減り、やりきれない思いがした。  結局その日、朝陽は松村の視界に入らないよう、寂しくないよう振る舞うのに必死で、まったく楽しめなかった。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加