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あの言葉通り、社会見学の日、秋吉は学校に来なかった。
口ではああ言っていたが、もしかしたら気まぐれで来る可能性もあるかもしれない。 そう思っていたのに。
「なんだ一人か?」
「はい」
結局、朝陽は一人でバスに乗り、ほとんど誰とも話さず一日を終えた。
唯一話したのは、例によってあの担任の松村だ。
朝陽を無理やり輪のなかに連れ出そうとはしなかったものの、一人でいるところを見かけるたびに何かと話しかけてきた。
「大丈夫か? 酔ってないか?」
「大丈夫です」
「もうすぐ着くからな」
「はい……」
松村はうまく取り繕っているのかもしれないが、自分だってバカじゃない。気を遣われていることをひしひしと感じた。
今まで、少ないながらも友達がいた朝陽は、"一人でいるのを心配して話しかけられる”という経験をしたことはなかったのだ。
経験してわかったが、多少なりとも自尊心が傷つく。
これなら秋吉みたいに、「いやだ」とか「行かない」「嫌い」とズバズバ言ってくれたほうがまだマシだ。もちろん、腹は立つけども。
松村に言葉を投げかけられるたび、プライドはすり減り、やりきれない思いがした。
結局その日、朝陽は松村の視界に入らないよう、寂しくないよう振る舞うのに必死で、まったく楽しめなかった。
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