3話

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ーーーー  その一件があってから、朝陽はもう二度と秋吉に話しかけなかった。  けっして、社会見学に来なかったのを逆恨みしているわけではなく。  ……いや、それもあるけれど。 ーーてめえの都合のいいようにオレを利用しようとすんな。  あの言葉が心から離れなかったからだ。  社会見学の一件、あれはたしかに自分が独りぼっちになるのが嫌で、秋吉を誘った。  しかしそれを言うなら、彼に話しかけることそのものが、自分のエゴだ。  挨拶だって、秋吉の他に話す人間がいないから仕方なくやっていただけ。  それ以外にも、先生からの伝言をわざわざ伝えたり、授業で必須の持ち物があれば事前に教えていたが、それもすべて下心だ。  そう思うと、自分の中に秋吉に対するただひたむきな無償の好奇心や、友情を育みたい、という純粋な気持ちが一切ないような気がして、彼に話しかけることそのものが怖くなった。  秋吉が登校するたびにしていた挨拶も、やめた。  秋吉のペンや消しゴムが床に落ちれば拾ってあげていたが、それも無視した。  朝陽の態度が変化しても、秋吉はこれといって怒ってはこなかったし、そもそも気にした素振りすらなかった。
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