3話

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   秋吉と言葉を交わさなくなって数日経ったある日。  日本史の授業中に事は起きた。 「鎌倉幕府を立てたのは誰ですか?ーーじゃあ秋吉くん、この問題を答えてください」 「……」 「秋吉くん」 「……」 「秋吉くん」  日本史の教師の掛け声に気づかず、秋吉は気持ちよさげに寝息を立てている。  メガネをかけた若手の女教師はよほどイライラしているのか、秋吉が気づかないとわかっていて、当てつけのように何度も何度も「秋吉くん」と呼んでいた。  それでもまったく起きる気配がないとわかると諦めて、朝陽に視線を向ける。 「水川くん、悪いけど、隣の彼を起こしてくれる?」 「えっ」  瞬間、クラスのみんなの視線が朝陽たちに集約された。  その視線には、面白いことになったぞ、という好機の目もふくまれていて、自分に役割を押し付けた教師に対して苛立ちを覚えた。 (なんで僕が……)  そう思ったが、教師の威圧感と、教室に蔓延する無言の圧力でどうにも断れそうにない。 (お前が寝ているせいで、こんな損な役回りに……)  いっそ思いっきり叩き起してやりたい気持ちだったが、朝陽は普段通りの口調で秋吉に声をかけた。 「秋吉くん、起きて」 「……」 「秋吉くんってば。ほら」  何度か肩をゆすると、「ん」とようやく秋吉が目をひらく。 「……なんだよ。うっせーな……」  あきらかに機嫌の悪い秋吉に睨みつけられたが、自分だって好きで話しかけたわけじゃない。  朝陽は、こちらを睨みつける秋吉に対し、視線をちらりと動かして、日本史の教師の方を示した。  秋吉はゆっくりと頭を動かし、教室前方から露骨に怒りを称えた目でこっちを見ている女教師に、目を留める。  それで状況を察したのか、秋吉は黙って体勢をととのえた。 「秋吉くん、よく眠れましたか」
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