3話

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「は?」 「南北朝時代から動乱が続いたことで守護が獲得した権限で、荘園の年貢の半分を徴収する権利を与えられた法を何と言うでしょうか?」 「知るかよ……」  秋吉は小声で吐き捨てるように言った。  なんで突然、こんな問題を出すのだろう。  思わず朝陽の口が動いた。 「せ、先生」  鋭い目で秋吉を見ていた教師が、一瞬だけ朝陽のほうを向いた。  その表情にかすかに焦りが見て取れる。  それを隠そうとしたのか、教師の視線はすぐに秋吉に戻る。 「今は秋吉くんと話しているんです」  これはわざとだ。秋吉が答えられないとわかっていて、わざと問題を出しているんだ。  クラスのみんなも気づいているはずなのに、置物のように静まりかえって誰もそれを指摘しようとしない。  おかしい。なんでこんなこと。 「わかりませんか、秋吉くん。では答えを言いましょう。『半済令』といいます」 「……」 「授業を聞いてないからそんなことになるんです。いいですね」  教師は秋吉を軽蔑するように見ながら、冷ややかにそう言うと、教卓の上に広げてある教科書に視線を戻すと、「さて、授業に戻りましょうか」と言った。 「うぜえ」  秋吉は、今まで聞いた事のないような低い声で吐き捨てた。 「なんですって?」 「うぜえって言ったんだよ」 「松村先生に報告しましょうか。それとも親御さんに連絡を……」 「先生! 」  朝陽は声をあげた。  秋吉が居眠りしていたのが悪いのはわかってる。でも仕掛けたのは先生だ。これはおかしい。  日本史の教師は朝陽の訴えを察したのか、口をつぐんで教科書に向き直る。 「皆さん、36ページを開いてください。授業を再開しましょう」  秋吉は怒って出ていくかと思いきや、そのまま机に頬杖をつき、今度はおもむろにスマホを触り始めたのだった。
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